8 / 38

第8話「呼び出し」

教室に戻ると俺の周りにはいろんなやつが群がってきた。話した事のないやつも、いつもは控えめな女子までもがおめでとうと声をかけてくる。 まぁ、普通ならここは喜ぶとこだ。でも俺は今喜べる状態じゃない。 「良かったな(あらた)‼︎」 「やったな渋谷(しぶや)‼︎ 生徒会に推薦されるなんて流石だぜ‼︎」 「……べつに嬉しくねえ」 「またまたぁ〜」 「照れんなって‼︎」 ひとりのダチが肩を思いっきり叩いてきたけど、今はそれさえもイラっとする。 「でも大崎(おおさき)も成績上位者の中に入ってたよな? 大崎は選ばれなかったのか…?」 そのダチがポツリとそんな事を言った瞬間、周りは教室の片隅にいる大崎の方へ目をやった。 大崎……大人しそうな暗めのやつ。入学して…というより、同じクラスだけど一度も話した事がない。 そっと視線をやると、心なしか大崎は俺を睨みつけてきた。 「俺、睨まれたんだけど……」 「ははっ、あいつ生徒会に入るって必死だったもんなー‼︎」 「そうなのか…?」 「そ! だから悔しいんだろ‼︎」 盛大に笑いながら、ダチが俺の肩をバシバシと叩いてくる。 生徒会…。確かに入れば進路に有効的になる。損はない。でも―― (あのくそ眼鏡がいる事に問題があるんだ) なんなら、今すぐにでも大崎に代わってやりたいくらいだ。 気分が上がらない中、自席でジッとしていると携帯がヴヴッと振動した。 着信メール。知らないアドレスからだ。 開いてみると、それがあいつだとすぐにわかった。 “今すぐ保健室に来い” 殺風景な画面にはその文字のみ。 見た瞬間、これまた怒りが湧き上がる。 「誰が行くかよ……」 (大体、俺には皆勤がかかってんだ。一回の授業だって休むもんか。つか、一限目から呼び出すとかまじありえねぇ。こんなの無視だ無視) メールを削除しようとした時、また携帯が震えた。 「なんなんだよ…っ」 今度は添付メールだった。 写真を開くと、あの時の俺の恥ずかしい写真が画面に表示される。 「っ⁉︎」 「ん? 渋谷どした?」 「い、いや、なんでもねぇっ」 すぐに携帯をポケットに仕舞い、ダチが離れた後にもう一度そのメール内容を見る。 “5分以上遅れてきたらこの写真バラ撒くから” (くそ野郎‼︎‼︎ なんだよそれ‼︎ 最初のメールからもう3分は経っただろ‼︎ 保健室まで5分で行けるかよ‼︎) 「きりーつ」 俺に寄越したこの文を打ち込むあの野郎のムカつく顔が頭の中でイメージ再生される中、日直が号令を掛けた。 「あ…あの先生‼︎」 すかさず手を上げるとクラス中が俺に注目する。 「どうした渋谷ー?」 「あ、あの、腹痛いんで便所行ってきてもいいっすか?」 「なんだ腹痛かー。生徒会に推薦されて気が緩んだんだな。いいぞ〜」 余計な事を言いやがったな先公め。と、先生に対しても苛立つが、今はそれどころではない。 クラスメイトがクスクスと笑う中、俺は駆け足で便所ではなく保健室へ向かった。 「くそっ……恥かかせやがって‼︎」 あいつに会ったらまずはガツンと言ってやる。 俺は平和に学校生活が送りたいだけなんだ。それをあんなくそ眼鏡に邪魔されてたまるか。 イライラを積もらせながら保健室にへと辿り着くと、そこには制服をはだけさせベッドに腰掛けるあのムカつく眼鏡がいた。 「遅い。10分遅刻」

ともだちにシェアしよう!