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第17話「あり得ねぇ」
俺は今、開いた口が塞がらない。
新 が言い放ったそのひと言が俺の頭をぐるぐる回ってる。
もしかしたら聞き間違い? いや、冗談か? なんて思ったけど、新の目を見るとそんな事死んでも言えなかった。
「は? 相手ナイフでも持ってたのかよ」
「いや、素手」
「………いや」
(いやいやいやいや、あり得ねぇだろ…新が負けるとかそんな事…)
こいつはこの身長のわりにまじ強えんだぞ?
こいつはダチが人質に取られて相手10人いてもひとりで助けに行って、余裕で勝っちまうようなやつだぞ? この身長のわりにっ‼︎
いやいやあり得ねぇだろ…新が負けるとか、そんなの相手がガチムチマッチョ眼鏡しか想像できねえんだけど。
「…………」
「おい、なんか言えよ」
「いや、びっくりして……何? そいつにパシリでもやらされてんのかよ?」
ケンカで負けたからって、新が誰かの下につくなんてそれこそないと思うけど――
「あー……パシリならまだよかったな」
そう言うと、新はコーラをくぴっと飲んだ。その言葉にさらに俺の頭は混乱する。
だって、なんだよその「パシリならまだよかった」って…
は? 何? そいつになんかされてんの? ガチムチマッチョ眼鏡に…まさか――
(まさか、人間サンドバッグ⁉︎)
「おい、そんな目で見るなよ」
「お前‼︎ 今日から筋トレしろ‼︎」
「は?」
「そのガチムチマッチョ眼鏡にサンドバッグにされてるなんて‼︎ 体が鈍ってたせいだろうが‼︎」
「ガチム……べ、べつに相手はマッチョじゃねえよ。それに、なんつぅ発想してんだよ」
とんでもない事態だという事をこいつは何もわかっていない。取り乱す様子もなければ、どこかその眼鏡に負けたのを受け入れている顔つきをしやがる。
正直、俺は頭は悪いけどケンカは自信ある。というか、それしか取り柄がないとさえ自分では思ってる。
だからケンカも強くて、頭もいいこいつの事をすげぇって思ってるし、慕ってる。
そんなこいつを負かすやつなんて…いや、きっとまぐれに決まってる…よな?
「つか、秋人身長伸びた?」
「え? なんで?」
「さっき、ちょっと思っただけ」
もしそうじゃないなら、その眼鏡に会ってみたい。
「あ、ああ、2センチ伸びたぞ‼︎」
「滅べ」
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