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第19話「早朝のイタズラ」
眠い。まだ全然眠いのに、俺はいつもより数段早く登校している。
学校へ向かう途中に日がさし始め、朝日が昇って行くのを細目で確認した。
「そのまま沈んでくれ……」
こんな朝早くから、俺は今一番嫌いなやつに会わなくてはならない。
あのくそ眼鏡から呼び出しのメールを受け、無視していたら「時間通りに来ないとあの写真をばら撒く」と脅され仕方なく指定された時間に生徒会室に向かう羽目になっちまった。
「行きたくねえ」
学校に着いても、ほかの生徒はまだ登校してない。
まぁ、部活で朝練やってるやつは別だけど……。
教室に荷物を置き、重い足取りで生徒会室に辿り着く。
こんなとこ、入った事なんてなかったから入るのに少し緊張する。
つか、よりにもよってなんで生徒会室なんだ。
「し、失礼します」
数回ノックをした後、ひと言声をかけたけど反応はない。
時間をミスった? とも思ったけど、携帯で確認してみたら7時25分。約束の時間のぴったり5分前。
そっと扉を開け中を覗いてみる。中は静かで一瞬誰もいないように思えたけど、よく目を凝らして見るとソファの上であの眼鏡が寝ているのを見つけた。
「……おい」
近づいて声をかけてみるが、起きる気配がしない。
「おいくそ眼鏡。なんで呼び出したてめえが寝てんだよ。起きろおい‼︎」
「ん……うっせえ…」
「こいつ……」
寝ぼけているのか、小さく舌打ちをした眼鏡はそのまままた眠り始めた。
「てめえ…俺だって眠いんだよ。用事ねえなら帰るぞ。おい眼鏡‼︎」
背を向けて眠る眼鏡の肩を揺すると、眼鏡は寝返りを打ち仰向けになった。窓からさし込む太陽の光が眼鏡を照らす。
正直こんな事は死んでも認めたくはないけど、こいつは本当に綺麗な顔をしている。
真っ黒な髪に、両耳にはこれまた真っ黒いピアスがひとつずつ。おまけに黒縁の眼鏡。
腹ん中も真っ黒なこいつにはぴったりだ。でも…男を見てこんな事を思ったのは初めてだ。
「男なのに綺麗とかむかつくな」
そうだ。こいつが寝ている隙に日頃の仕返しをしてやろう。
そう思い立つと急に眠気が吹っ飛び、仕返し方法を考えてみる。数秒考え込むと、素晴らしいアイデアが頭に浮かんだ。
「そうだ。“眼鏡”……」
こいつ、出会った時に眼鏡がないと何も見えないって言ってたな。
なら、眼鏡を隠しちまえばいいじゃねえか。それに、眼鏡かけてるやつは眼鏡を外すと目のデカさがマイナス1.5くらいになるって秋人 が言ってたしな‼︎
「悪く思うなよ。その眼鏡、頂戴するぜ」
起き上がった時のこいつの反応を想像しながらそっと眼鏡を外してみる。
「なっ、」
しかし、眼鏡を外した瞬間俺の体は完全停止した。
「嘘だろ」
そして俺はこいつの眼鏡を外した事を後悔する事に。
なぜかって? それは――
「なんなんだよこいつ」
眼鏡を外すと、こいつはより美男子だったのだ。
(眼鏡外すとイケメン度1.5増しじゃねえかよ秋人この野郎‼︎ 嘘言いやがって‼︎)
綺麗な長いまつげ。整ったその顔に不覚にも見とれてしまった。
「……涙ボクロ」
いっつも眼鏡してっから、全然気づかなかったけど、左目の下にホクロあんだな。
「…っ」
と、とりあえず眼鏡外してもこいつのイケメン度が上がるだけだと分かった。
眼鏡ないこいつを見てると俺が滅入りそうだ。いろんな意味で。
バレないうちに眼鏡をかけ直そう。
「よ…しっと」
眼鏡を戻し、このまま起こさず教室に戻ろうと思った時だった。
「うわっ‼︎」
ものすごい勢いで腕を引かれ、その反動で俺の腕が近くにあった山積みの資料に当たってしまう。
視界が一変し、天井が見える。
そして、あの真っ黒な髪が頬を撫でた。
(なんで…)
「主人が寝てる隙にイタズラなんて」
お前が俺の上に乗っかってんだよ――
「いけない犬だな。新 」
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