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第20話「イタズラ失敗」

押し倒されたソファの上。真っ黒な眼鏡の髪からか、それともこいつ自身のものか、甘い香りにふわりと全身を包まれる。 俺の上でにやりと笑みを見せるのは、あのむかつく眼鏡。 寝起きの眼鏡の色気はハンパない。きっとそこらへんの女ならこんな事されたらこいつに惚れちまうだろうけど、生憎俺は男だ。 「て、てめえ‼︎ 起きてたのかよっ⁉︎」 こいつに惚れるどころか嫌悪してる。 最悪な事態になる前に、早くこいつを退()かさないと―― 「質問してんの俺なんだけど?」 でも、眼鏡に両手を押さえつけられてピクリとも動かない。 ほんと、馬鹿力にもほどがあんだろ…っ 「べ、べつに何もしてねえ」 「………」 「つか退け‼︎ 重い‼︎」 「(あらた)――」 「っ⁉︎」 近づいてくる眼鏡の顔から逃げようと顔を背けると首に冷たい感触が広がる。 「ひゃっ」 眼鏡の舌が首筋を伝い鎖骨に到達したかと思えば、強く吸われ体が跳ね上がる。 「いっ…や、やめっ」 くすぐったいし、強く吸われた瞬間、吸われている場所がジンと痛む。 耐えられなくなり俺はつい正面を向いてしまった。 「新」 真っ直ぐ俺を見下ろす目。 俺の名前を呼ぶと、眼鏡はにこりと笑った。 「な・に・してたの?」 「………」 こ、怖えぇ…目が笑ってねえ。 「えっ…と」 「何?」 「眼鏡を……」 「眼鏡を?」 「…隠そうと…して、ました」 「へぇー」 仕返しのつもりだったなんて死んでも口にできずドギマギしていると、眼鏡は目を細めて笑う。 これがとんでもなく怖い。 「眼鏡(これ)取ってどうする気だったの?」 どうやら質問責めはこいつの十八番らしい。 この状況をどこか楽しんでいるような眼鏡と、なんとかしてこの場から逃げる術を考える俺。 でもその術はまったく思いつかない。 「早く言わねえと、続きするよ?」 「あっ…てめ、調子乗ん、なっ」 (あーもー、どうすりゃいいんだよ!) 眼鏡が服の中に手を入れてくる。早く何か言わないとまたあんな事をされる―― 早く、早く何か――‼︎ 「っ3だよ3‼︎‼︎」 追い詰められた俺は自分でもわけも分からないまま叫んでしまった。 「………は?」 いや、待て。3という数字は眼鏡をかけているやつにとって屈辱的な数字だと、確か秋人(あきひと)が言っていた。 現にこいつは3という数字を聞いて動きを止めた。 これは秋人の情報が効果的なのでは…なんて思い、俺は嫌味のように眼鏡に向けて笑ってやった。 「はっ、ダチが言ってたんだよ。眼鏡かけてるやつは大体が眼鏡取ると目が3になるってな‼︎ だからてめえの眼鏡奪って、その(ツラ)を拝んでやろうと思ったんだよ‼︎」 俺は今、人生で一番のドヤ顔を決めている事だろう。 狙い通り眼鏡は沈黙。どうやら図星らしい。 さっき眼鏡をとった時はこいつ目ぇ閉じてたし、やっぱ目開けると3なんだろ。 「新ってさ」 「なんだよ」 「……馬鹿だよな」 「は?」 何言ってんだよ。俺は頭良いに決まってんだろ。 成績トップだぞ? こんなにマジな顔して馬鹿なんて呼ばれた事がなかった俺は、そんな事を言う眼鏡(こいつ)の方が馬鹿なんじゃないかと、眉をしかめながら眼鏡を睨んだ。 すると眼鏡はふっと笑い眼鏡を外した。 「――⁉︎」 「どう? 今俺の目って3か?」 「さ………」 3じゃねえじゃねえかよ秋人ぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎

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