22 / 38
第22話「はじめまして」
「チッ……これから良いとこなのによ」
「成海 、前にも言ったよね? 校内でのセクハラは禁止だって」
今、俺の目の前ではイケメンふたりが言い合っている。
眼鏡は認めたくねえけど。
「成海がごめんね、大丈夫?」
突然現れた金髪美人は俺の方を向き手を伸ばした。
「は、はい」
伸ばされた手を取り、ひとまず体を起こす。
「君は?」
「し、渋谷 ……新 です」
名乗ると、そいつは何かを思い出したかのような顔をし目を輝かせた。
「ああ、君があの渋谷君か。写真とちょっと雰囲気が違ったから気づかなかったよ」
満面の笑みで手を握り返され握手をされた。その反応に一瞬戸惑ったが、とりあえず俺も握り返す。
「お、俺の事知ってるんですか?」
「もちろん」
優しく笑ったその顔は日本人離れした綺麗な顔立ちからは想像もつかないくらいに…めっちゃ、かわいい…。
「あ、自己紹介が遅れたね」
この時、眼鏡が後ろで俺を睨んでいるのは気づいていたが、気づかないフリをしておこう。
そっと視線を眼鏡からずらし、このスマイル人間を見る。
「僕は月島 樹 。これでも、この学校の生徒会長を務めています。よろしくね」
「せっ、生徒会長っ⁉︎」
(おいおいおい、生徒会長かよ‼︎ しかも最悪な場面を見られちまったじゃねえかよ‼︎‼︎ そういえば、よく見るとこいつ入学式でいたじゃねえかよ‼︎ やべぇ全然気づかなかった…‼︎)
「よ、よろしくお願いします」
強張る顔でぎこちなく返すと、会長はまたにこりと優しく笑って俺の手を握り締める。
や、会長に会うとか……眼鏡との事もあるしさすがに色々と気まずい。
「いつまで手ぇ握ってんの?」
口を開いたのは眼鏡だった。蚊帳の外だったのが気に食わなかったのか、少し怒ったように眼鏡の声がいつもより低く感じる。
眼鏡が口を挟むと、会長はようやく俺の手を離した。
「あっ、ごめんね。君がかわいかったからつい」
「………」
(かわいいって言うな。俺はその言葉を言われるのが一番嫌いなのに)
…まぁ、そんな事を会長に言えるわけもなく、とりあえず微笑んで返した。
多分顔は引きつってたと思うけど。
「樹。お前今日は用事あって外行くんじゃねえの?」
「ああ、その時使う書類をうっかり忘れちゃってね。朝のうちに取りに来たんだ」
「お前昔からどっか抜けてるよな。気ぃつけろよあほが」
(あれ……)
「口が悪いよ成海」
「うっせえ。用事済んだらさっさと行け」
なんだ?…なんか眼鏡の野郎、俺と話す時よりも話し方がなんか違う…。もっと、荒っぽいというか…。
生徒会長の事を知っているようだったけど、副会長だからというよりは、もっと昔から会長の事を知っているような…幼馴染とかか?
全校生徒の前では優男の仮面を被っていた眼鏡。
きっとこいつの本性を知っている人間は少ない…はず――
「今日の放課後は?」
「んー、時間が間に合えば来れるけど……」
「あ、あの…」
とにかく、早く教室に戻ろう。ふたりとも話に夢中で俺がいても邪魔なだけだし。
それにもうすぐで予鈴が鳴る。
「俺、そろそろ教室戻ります」
そそくさと入り口の方に歩いて行くと、眼鏡がぶはっと笑い始めた。
「何? 急に敬語なんか使っちゃってさ」
「てめえにっ‼︎ ……な、成海先輩には言ってないです」
殺意を込めて言い放ってやると眼鏡は面白くないような顔をする。
そんな眼鏡は無視して俺は会長の方を向いて礼をし、生徒会室を出ようとした。
「おい」
その時、開けようとした扉を眼鏡に邪魔され、後ろから覆い被される。
いわゆる、背後からドン だ。
いや、何? 背後からドンて。自分で思ったけどわけわかんねえ。
「な、なんだよ」
「さっきの続き、放課後するから」
「はっ⁉︎」
後ろから耳元で囁かれ体が熱くなる。
意味が分からない。
会長にさっきの見られたばっかだってのに何言ってんだと眼鏡を一喝しようと後ろを振り向くと、すぐ近くに眼鏡の顔があった。
「っ…」
「じゃあ新君。また放課後ね?」
どす黒い笑顔を見せるこいつは、やっぱり悪魔だ――
「じゃあまたね。渋谷君」
会長はその後ろでにこにこと手を振っている。
(ああ…会長……)
そんな微笑ましいように俺を見ないでくれ。
頼むから俺をこの眼鏡悪魔から救ってくれ。
「ご、ごきげんよう」
引きつる顔でそう言い残し、俺は生徒会室を後にした。
ともだちにシェアしよう!