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第23話「何を考えている?」

あの1年君が生徒会室を出て行くや否や、成海(なるみ)は肩を震わせて笑い始めた。 「成海、どうしたの?」 「くくっ……いや、あいつが“ごきげんよう”とか言うからさ」 そう言いながら振り向く成海の表情を見て少し驚く。成海がこんな風に笑うのなんて久しぶりに見た。 成海とは小学校からの友達付き合いだけど、昔からクールな性格だったし、最後に成海が笑ったのはいつだろうと思うほど、成海は滅多に笑わない。 「で、生徒会室であんな事して、入って来たのが僕じゃなかったらどうする気だったの?」 ソファに腰をかけ、成海に問う。 今の成海はかなりリスクの高い遊びをしているだけに見える。そうなら生徒会副会長として大問題だ。 「べつに。この時間にここに来るやつなんて俺とお前くらいだし。いいだろ」 素っ気ない返事に思わずため息が出る。 (いいわけないでしょ…) 「ほんと、昔からそのすぐ手を出す癖やめなよ」 高校に入学してからも、何度か成海が女子生徒に手を出したところを注意したけど、さすがに今回は相手が男となるとまた違った問題が発生する。 もしさっきの出来事を目撃したのがほかの生徒、もしくは先生だったら生徒会の評判はガタ落ちだ。 それどころか、あの1年君だけでなく、成海も処罰の対象になる。 「手なんか出してねえよ。いつも女が勝手に言い寄ってきただけだろ」 「だとしても、今後一切校内であんな事はしないで」 「へいへい」 雑な返事が返ってくる。やがて成海は散らばった資料を拾い始め、その資料に目を通し始めた。 危機感のない様子。僕が注意した事をまるで気にしてないような態度に、二度目のため息が出る。 「まさか、僕に相談もなしに勝手に書記に推薦したのって、あの1年君?」 僕の不在中に、成海は生徒会役員をひとり1年の中から推薦したと報告してきた。僕も、そろそろ残りの役員を決めたいと思っていたから報告を受けた時は「成海が選んだ人なら」と安心していたけど、逆に不安になってくる。 僕の問いかけに対し、成海は手を止めこちらを一瞥。 「そうだけど?」 いつもの無愛想な顔。僕の心配をよそに、成海は気だるそうに携帯をいじり始めた。 「なるほどね。なら尚更あんな事はしないで」 生徒の代表である僕たち生徒会に変な噂でも流されたら学校側からの信頼を崩す事になる。 そんなの許されない。 僕が、許さない。 「自分の立場をわきまえてね、遊びなら早く終わらせておくんだよ」 最終忠告をし、僕は取りに来た書類を持って生徒会室を出ようと入り口へ向かった。 「遊びねー…」 後ろから、ため息混じりの成海の声が聞こえた。 振り向かずそのまま部屋を出たが、成海が呟いた言葉ははっきりと僕の耳には聞こえていた。 「“今回のはちょっと違うんだよな”…か」 成海、お前は何を考えているんだ?

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