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第29話「どうすればいい?」
あの後会長は、縛られていた手も解いてくれた。
そして、会長からの問いかけにどくっと心臓が嫌な音を立てた。
「え…何って…」
声が震えているかもしれない。
俺をじっと見つめる会長から目を逸す事ができない。
どうしよう。なんて答えればいいのか分からない。
俺はあいつにとってはただのおもちゃで、きっと本当の意味で暇つぶしができる犬としか思われてない。
でも、それを会長に言えるはずもない。
こんな、情けない話――
「成海 と付き合ってるの?」
「は⁉︎ 誰があんなっ」
答えあぐねていると、会長にそんな事を言われたからつい反射的に強く声を張り上げてしまった。
「付き合ってはいないみたいだね。なら尚更、君たちの関係ってなんなのかな?」
「……そ、それは」
どうしよう。あいつに脅されてこんな事されてるなんて、死んでも言えない。
ましてや、俺が不良のトップだった事を会長が知ってしまったら……。
「……言えません」
本当に俺はこの学校にいられなくなる。
今まで築き上げてきたものが全部無駄になっちまう。
「…何かわけがありそうだね」
「……すみません」
「ううん、僕もごめんね。困らせたいわけじゃないんだ。ただ、君の力になりたくて」
「……っ」
考えろ。どうすればいい? 俺はこれからどうすれば元の生活を取り戻せる?
あの眼鏡から、どうすれば逃げれる?
会長を目の前にして、頭をフル回転させてもその策は出てこない。
きっとこのまま眼鏡の言いなりになり続けていたら、どこかでボロが出る。
今日だって、会長にあんな姿を見られてしまった。
それだけでも十分立場が危ないのに――
「渋谷 君」
震える手でネクタイを締め直し、会長を見上げると、会長はにこりと笑って言った。
「僕と付き合おうか」
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