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第31話「眼鏡とは違う気持ち?」
俺は今、人生で初の告白というものを、受けて……いるんだよな?
「え、なんて申しましたか?」
いや待て、聞き間違いだろ。
相手は男だぞ。しかも会長だぞ。
ないない。知り合って1日も経ってないのに…
「だから、僕と付き合ってよ。渋谷 君」
……聞き間違いではなかったようだ。
「なっ、何をおっしゃるのですか!」
会長からのまさかの申し出についつい堅苦しい喋りになってしまう。
というか、会長まさかホモだったのか? でも確かに、会長はうちのクラスでも騒がれるほど女子たちから人気があるのに恋沙汰は聞いた事がない。
(まさかっ、さっきの俺のあんな姿を見て欲情したとかっ⁉︎)
「会長……俺、男です」
「知ってるけど?」
「冗談はやめてください」
そうだよ。冗談に決まってる。
うんうん、と自己解釈をしていると、会長はクスリと笑った。
「君は可愛いね」
いや、どこをどう見たらそう思えたんだよ。
うわー、こいつもわけ分からん。
「付き合うフリだよ」
「え?」
「僕の思う限りでは、君は成海 に何か弱味を握られてるんでしょ?」
「……っ」
図星を突かれ、下を向いてしまう。
「成海さ、気に入ったらいじめちゃうとこあるから。でも今日の事を考えると成海はやり過ぎだと思うけど」
「……ごもっともです」
本当だよ。
学校であんな事するなんてあいつはもはや人間ではない。妖怪だ。妖怪ドS眼鏡だよ。
「これ以上君に被害が及ぶといけないし、生徒を守るのも僕の役目だしね」
柔らかく笑う会長。少し開いた窓の隙間から入り込んだ風が会長の髪を揺らした。
「君が成海の事を好きなら、話は別だけど」
「す、好きなわけねぇっ‼︎……です…」
また反射的に声を張り上げてしまったけど、会長と目が合うとどうしてか胸がドキっとしてまたすぐ下を向いてしまった。
会長はそんな俺を見て微笑んだまま、椅子に腰掛けた。
「なら僕と付き合う事にすればいいよ。そうすれば、校内に居る時も、君が生徒会に入っても僕が成海から守ってあげるよ?」
「なっ……」
なんて優しい人なんだっ‼︎ 会長ホモとか思ってすまねえ‼︎
あんたは漢だ‼︎ 俺の光だよ‼︎ ご来光があんたの後ろに見えるよ‼︎‼︎
俺は今、猛烈に泣きそうだ。
眼鏡から解放される道が開けたからだ。
「どう?」
この申し出、受けない以外の選択肢なし‼︎‼︎
「よ、よろしくお願いしますっ‼︎」
はっ、くそ眼鏡め。
お前は俺に生徒会長を盾に脅してきたが、今じゃ生徒会長は俺のナイトだぜ。
これでてめえとはおさらばだ。
「でも、いったいどんな弱味を握られてるの?」
「‼︎……えっ……と」
待て待て、そうだよ……。会長と付き合うとしても眼鏡に弱味を握られている事に変わりはない。俺が逆らったら、あいつはきっと会長に俺の事を言うはずだ……。
くそ……やっぱそう簡単にはあいつから逃げれねえのか?
「……大丈夫」
「え?」
「成海はああ見えても結構口は堅いし、それに本当にどうでもいいと思う相手だったなら尚更」
「………」
そ、そうなのかな……。つかどうでもいい相手だったら…って…。
でも確かにそうだよな…俺の事なんてどうせ一時の暇つぶしに過ぎないだろうし、うまくいけば眼鏡との関係はフェードアウトできる…よな。
とにかく、今はこの人を信じてみよう。
まぁ付き合うっつっても仮だし。眼鏡みたいに強引な事もこの人はしないだろうし。
「じゃあ。信憑性を持たせるために今から新 って呼ぶね」
「ふぇっ‼︎…は、っはい」
どうしよう。
会長が俺を下の名前で呼んだ。しかも、あんなシャイニングに……
「ん? どうしたの?」
「い、いえ…」
あれ、なんだ? またドキって……
眼鏡の時とは違う……なんか、胸の奥がぎゅってした…。
「成海には僕から言っておくから。今日はもうお帰り」
「は、はい」
会長の柔らかい声音。頭がふわふわするような、そんな感じ。
ドキドキが収まらないまま、生徒会室を出る。
あんなに冷たかった体が今じゃ熱くて…扉の前で振り返れば、目に浮かぶのは会長のあの優しい笑顔。
「会長と…付き合う…」
ぽつりと声に出してみると、体がボボボっと熱を帯びる。
この選択を選んだ事で、明日からの俺の人生は変わるのか?
「……んでこんなドキドキしてんだよ俺っ」
だが、変わっていくのは俺の人生ではなく、俺自身だった事を
この時の俺は知らずにいた。
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