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第33話「地獄と化す5分前」
結局、昨日は全く寝つけなかった。何度も会長の笑顔が頭に浮かんで、その度胸の奥ががぎゅうっと締めつけられる感覚が続いた。
いや、でもこれはあれだよな。最近、鬼畜眼鏡のせいでストレス溜まってて、そこに会長と言う名の天使が現れて…眼鏡とはかけ離れた会長の優しさに触れて…うれしかったからだよな?
ぜってえ好きとか……そういうんじゃねえよな?
大体、会長は男だし、俺はホモじゃねえし……
「……らた」
寝てないせいか頭がぼーとする。
俺、仮とはいえ会長と付き合うことになったん…だよな…
(誰かと付き合うって初めてだ…)
「おい新 ‼︎」
「ぅわっしょい‼︎ なんだよっ」
学校に着いてからずっと上の空だったせいか、ダチが俺の事を呼んでいる事に気がつけなかった。いきなり耳元で名前を呼ばれて、反射的に体が飛び上がってしまった。
「なんだよわっしょいって……つかお前の事さっきから呼んでる」
俺の反応に呆れかえったダチが教室の入り口を指さした。
あ? っと目を細めて指先が示す先を見ると女子に囲まれる眼鏡を見つけた。
「なっ」
(眼鏡‼︎‼︎‼︎)
一瞬にして夢見心地の気分が覚める。
「行かなくていいのかよ」
「い、いい……ほっとけ」
そっぽを向いて窓の外を見ると、足音とともに教室中の女子の群がる声が近づいてきた。
「お、おいこっち来てるぞ」
「知らねえっ」
そして数秒後、眼鏡は“バンっ”という大袈裟な音を立てながら俺の机に手をついた。
その音に、周りの声が一瞬にして静まる。
ダチはそんな眼鏡に怖気づいたのか「 し、失礼します」とおどおどしながら俺から離れていく。
「な、なんだよ」
「俺に話あるんじゃないの?」
「ね、ねぇよ‼︎ つかここ教室‼︎ 女子が引いてんぞ‼︎」
「どうでもいいよ。新、ちょっと来てくれる?」
「はっ⁉︎ なんっ――」
なんでだよ、と言ってやるつもりだった。
でも、振り向いて眼鏡の顔を見た瞬間……
「来るよな?」
「………はい」
“ここで逆らったら殺される”
そう俺の中の野生本能が警告した。
いや、行ってもこれは殺される……
眼鏡に言われるがまま、立ち上がり教室を出た。
あんなにキャーキャーと騒いでいた女子たちも眼鏡の怒りオーラを感じ取ったのかえらく大人しかった。
俺がSOSを出している事に誰も気づきはしない。
眼鏡の後について行く事 数分後、体育館裏に到着する。
到着するまで、眼鏡はひと言も喋らなかった。
無言のこいつの背中が怖い。
ケンカをする時によく体育館裏を使ってた事があるけど、こうも恐ろしく感じるのは初めてだ。
「ここでいいか」
眼鏡が呟くと思わず体がびくりと震えた。
足を止めた眼鏡は振り向くと俺の方をじっと見つめてきた。
「な、なんだよ…」
その冷たい視線に、少し恐怖したがここで尻尾を巻いたら負けだ。
睨め‼︎ こいつを睨め俺‼︎‼︎ 負けるな俺‼︎‼︎‼︎
「何、その目?」
「見て分からねえのかよ、てめえを睨んでんだよ」
そう吐き捨ててやったのに眼鏡は珍しく言い返してこなかった。
沈黙したまま、変わらず俺を見つめている。
その沈黙が怖い。
(なんだ? 昨日の事か?…)
しばらく様子を見ていると、やがて眼鏡はゆっくりと口を開いた。
「樹 と付き合うってほんと?」
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