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第34話「言えばどうなる?」
眼鏡が呟くと同時に、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。辺りは先ほどまでとは打って変わり静かになった。
“樹 と付き合うってほんと?”
そう呟いた眼鏡はいつもより落ち着いた声、いつもよりも冷たい目で俺を見る。
どうして眼鏡がこんなに不機嫌なのかは、この時の俺はまだ分かっていなかった。
「……だったらなんだよ」
「………」
答えると眼鏡は黙った。
沈黙を続ける眼鏡に対し、妙な緊張感が体をかけ鼓動が早まる。
会長が昨日の帰り際に言ってくれていたように、眼鏡にあの事を話してくれたのかな?
俺と会長が付き合うってなったから、こいつはほんとにもう俺に手を出してはこないのか?
眼鏡は明らかに様子が変だ。きっと会長効果が効いている証拠だ。
会長すげえぜ‼︎‼︎‼︎
くそ眼鏡も会長には逆らえねぇってか‼︎
「はっ」
なんて、有頂天だった俺を前にして眼鏡はいきなり笑い始めた。
「――なるほどね。俺からそんなに逃げたい?」
「は? 何…言ってんだよ」
「新 さあ、べつに樹の事好きなわけじゃないでしょ?」
吐き笑いながら少しづつ俺に近づいてくる眼鏡。
ジリジリと後ずさると、やがて背中が壁についてしまった。
「なぁ」
「っ‼︎」
手で逃げ道を塞がれる。眼鏡の大きな影に覆われ、下から見上げると
「そんなに俺から逃げたい?」
ひどく冷たい表情の眼鏡と目が合う。
「あ、当たり前だろっ‼︎ お前みたいなやつ――」
「逃げる為に樹を利用すんの?」
「利用なんかしてねえよっ‼︎ 本当に俺は会長と付き合うっつってんだろ‼︎ 離れろくそっ」
睨みをきかせてみても、こいつが怯むわけがない。
投げかけた言葉に眼鏡が言い返してこないのはきっと、こいつが今ものすごく怒っているから。
眼鏡が何を考えているのか分からない。どうして簡単に引き下がってくれないのかも。
俺なんか、替えがきくただのおもちゃくらいにしか思っていないはずなのに――
「なら、樹を好きって言ってみろよ」
「――は?」
静寂の中に響く眼鏡の声。
真っ直ぐと俺に落とされる視線に捕らわれてしまい、視線をずらすこともできない。
体が硬直した。
(会長を好き? 俺が? 言えばこいつはもうこんな事してこないのか?…)
もしもそうなら、言ってやる。
「お、俺は……」
でも、言えば自分自身が何かに気づいてしまいそうで
「俺は、何?」
「か、会長が……」
それをこいつの前で言ってしまったら
「会長が……好きだ」
会長に対してあんなにあったかい気持ちになれた事も、会長の顔ばっか思い浮かべてしまうのも、全部――
初めてのこの感覚が“好き”って事なんだって……
こいつに気づかされてしまう。
「っ……」
口に出した瞬間顔が熱くなる。
(俺は、まじで会長が好きなのか?)
このうるさい心臓の音も、この締めつけられるような胸の痛みも、好きだからこんな――
「……へえ、ほんとに好きなんだ」
頭の中がぐるぐるして下を向くと眼鏡は低い声で呟く。
「だったら尚更、あいつにはあげない」
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