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第35話「独占欲」

(いつき)が誰かと付き合う、なんて。そんな事をあいつから話されたのは初めてだった。べつにあいつが誰と付き合おうがどうでもいい事だけど、相手が俺のお気に入りのおもちゃだってのは正直気に食わない。 しかもその相手は男だってのに。 いつ? どのタイミングでそんな事になった? 頭でも沸いたか? とツッコミどころが山ほどある。 それに、樹はあんな事言ってっけど(あらた)が男と付き合う事を受け入れるなんて到底思えなかった。 いつも会えばくそ眼鏡やら変態やら憎まれ口しか叩かねえのに… どうせ俺に対抗しての行動だろ。 樹に何か吹き込まれたかそれとも、本当に新が樹を利用して俺から離れようとしているのか。 どっちにしろ、冗談だろくらいにしか思っていなかった。 だから「お前がこのまま樹と付き合っても変にボロが出るだけだ」と、忠告してやろうと思ったんだ。 なのに―― 「俺は……会長が好きだ」 耳まで真っ赤にしてか細い声で呟いた新。 今まで見た事もない表情を浮かべる新を前にして、どうしてか胸の奥がえぐられるような感覚がした。 「……へぇ」 (本気で好きみたいな顔しやがって…俺には見せた事もないくせに) まさか本当に言うとは思わなかった。こいつの事だから、ボロを出して噛みつくように怒鳴ってくるかと思っていた。 “ 好きとかありえねぇ” って。 「ほんとに好きなんだ?」 反抗的で、生意気なこいつが初めて素直になった瞬間。 どうしてそれが俺に向けられたものじゃないんだ? 樹のどこがいい? あいつの事を何も知らないくせに、好きだなんてよく言えたもんだ。 お前は俺が見つけたんだ。 今更ほかのやつに渡すなんて冗談じゃない。 「だったら尚更、あいつにはあげない」 お前は俺だけを見てればいいんだよ――

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