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03 こうしてオレはわんわんになった。
過去回想。虐待描写あり。
物心ついたオレは生ごみの中にいた。
別に生ゴミと生ゴミがくっついて生まれました、新種の生命体ですってわけじゃない。
生産者? 製造者? がいらなかったから捨てられてゴミ袋の中にいた。
確かにゴミ袋に生ゴミと一緒に捨てられたのは正しいのかもしれない。ゴミ袋の中で放っておけば時期にただの肉のかたまりになるのだからオレは生ゴミかもしれない。
ただ、まだ生きてた。
臭くてヌルヌルして気持ち悪いけど泣いたら怒られるっていうのが染みついてたから泣いたりしなかった。ぶっちゃけて何があったのかよく分かってないバカだったのだ。
捨てられた自覚なんてなかった。
親という存在すらもわかってはいなかったかもしれないけれど、オレは孤独を感じていた。たぶん二歳かそこらだけど、言葉なんか知らないし、現状の認識も出来やしない。知能なんてないのなら肉のかたまりっていうのは間違っていないかもしれない。
食べられない肉のかたまりは生ゴミだ。
ゴミに出されたってことも理解できずにお腹空いて、近くにあった生ゴミを口に入れては吐いたりしてた。
ガタゴト動いていたからか神様が助けてくれた。本当に神様としか言いようがない。月なのか街灯なのかで後光が射したような状態でオレをのぞき込む神様と目が合った。
たぶん「大丈夫?」とかそういうことを聞かれたんだと思う。抱き上げられて「痛いところない?」って言われてオレは泣き叫んだ。言葉の意味はわからない。覚えているのかも怪しい。確実だったのは自分を心配してくれる相手がいた、そのことを理解して俺は安心から泣いた。泣いてもいいと本能が叫んだ。泣くべきだと、ここにいると訴えたかった。
生ゴミと自分の垂れ流した糞尿で身体は汚れて顔も涙や汚れや吐瀉物でぐちゃぐちゃだった。なのに神様はオレの頭を撫でて「生きててくれてよかった」と言ってくれた。
この日のことは実のところは飼い主から聞いた記憶で補強してる。
だから事実そのままなのかは疑わしい。だとしても神様が俺を助けてくれたことは事実だった。オレがオレとして生きていくために何よりも大切な記憶。
そしてオレはいつでもその夜のことを思い出してゴミ袋の上から包丁でグサリと留めをさされなかったことやゴミ袋の口を固く結ばれていなくてよかったと安堵する。そうされてたらオレは確実に生きてない。
ゴミ出しが夜じゃなかったらオレは神様に発見してもらえなかったかもしれない。
朝にゴミ出ししたらもっと早く発見される可能性だってあったかもしれない。けど生きたままゴミ収集車に入れられる危険もあった。オレの声は死んでいたから誰も気づいてくれないかもしれない。
考えると怖いからオレは今でもゴミ収集車や清掃員の人がとても苦手だ。
神様に助け出されて病院で検査を受けたオレは、普通なら施設行きだったのを捻じ曲げた。ワガママになったらしく、オレは神様と離れるのを嫌がった。神様から離れたら死んでしまうような強迫観念にも駆られていた。それより何より神様以外が怖かった。
神様は本当に神様だったのでオレはそれは優しく優しく育てられた。
けれど、クズの血を引くクズだから次第に神様の周りの人から疎まれるようになる。このあたりの記憶はちょっとトンでいてわからない。ただ結果として飼い主の下に預けられた。神様も忙しいから仕方がないのかもしれない。飼い主のところで賢いわんわんでいれば神様はオレを見て優しい言葉をかけてくれる。
『わんわんの絵本好きだね。俺もわんわん好きだよ』
『わんわん、すき?』
『うん、わんわんかわいいよね』
『おれ、も、わんわん』
『ん? わんわん??』
『おれ、わんわん』
『わん?』
『わん!』
こうしてオレはわんわんになった。
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