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05 俺様生徒会長はどう考えても不在だった。

   特待生のオレは一人部屋のはずだけど転入生の同室になる。  何故かゴールデンウィーク後という一学期が始まって一か月後の微妙な次期にやってくる転入生。  もじゃもじゃ頭のカツラを被り瓶底メガネを装備した彼を蛇さんは王道くんと呼んだ。王道くんは生徒会役員と仲良くなり、最初は学園から歓迎されない雰囲気だ。けれど最終的に全校生徒から愛される存在になるらしい。  そんな人間がいたらオレの内臓売っていいよと蛇さんには言っておいた。  誰からも愛されるなんてそんな気持ちが悪い存在がいるわけない。  生徒の数は二千人は居たはずだから目立ったら嫌われたりはするだろう。けど好かれるのはまず無理。それが一ヵ月学園に通ったオレの結論。  そしてそれは正しかった。    蛇さんに言われた通りにオレは転入生を監視していた。  門番さんを困らせて、案内してくれる副会長に暴言を吐き、理事長とのイチャイチャは密室のことだから知らない。  寮長さんにからかわれながらオレを引っ張って食堂へ。  ここで生徒会長とキスすれば晴れて親衛隊を敵に回して嫌われ者からの人気者になるらしい。王道ってよく分からない。物語には山あり谷ありがいいってことなんだろうけど人生は楽ばっかりがいい。苦しみはいらない。    ともかくオムライスを食べる転入生の傍らオレはイチゴパフェを食べていた。パフェは一ヵ月半ぐらいの周期で入れ替わるらしいので全種類制覇するのだ。ご飯なんか食べていられない。  食堂がざわめき生徒会役員の訪れを知らせる。  なぜか転入生が自分はここにいるとアピールして役員たちを呼ぶ。知り合いなのかと思ったら違うらしい。「あれ、学校を間違えた?」とか言っている転入生を尻目にパフェを無心で食べるオレ。キスしてたら周りが騒いで教えてくれるだろうから気にせずパクパクリ。    蛇さんは副会長が腹黒で冷徹眼鏡系美人だって言っていたけれど、どう見てもゴツイ系男子。空手部主将らしい。お近づきになりたくない。そして婚約者一筋だという情報があるので転入生になびくことはないと思っている。けれど蛇さんはきっと婚約者を捨てるなんて失礼なことを言っていた。  会計はチャラ男でヤリチンだって話だけど、どちらかといえば美少女系の外見だったから匿名で女子の制服を贈った。休日に着るようになってファンが増えたらしい。男子校のうるおいだね。ちなみに地味で真面目な年下の彼氏持ち。やっとキスが出来たレベルのじれったい恋愛模様の会計をヤリチンだなんて誰もいえない。  それでも蛇さんにかかれば転入生を好きになるんだろうか。    書記は放送部員を兼任してるらしく、よく早口言葉の練習をしてる滑舌がいい人。身長が高いのは厚底だからだっていうのはオレだけの秘密にしてあげたいところだったけど、身体測定で庶務の双子にバラされてた。哀れ。  そして放送部の部長である三年生と交際中。  ラブラブなのを昼の時間に垂れ流したりして、お腹いっぱい胸いっぱい。    庶務の双子は二卵性で仲は良くも悪くもない。好きなものを取り合ったり嫉妬し合ったり当てつけたりとかない。お互いが白熱するのは恋人自慢だけ。ちなみに恋人も双子で姉妹校の女子高にいるらしい。女の子は一卵性だけどあんまり似ていない。同じものを食べてても考え方が違うからか体型に差がある。    蛇さんは生徒会役員が転入生を好きになるストーリーを想像していたみたいだけどそれは一瞬で破壊された。    最後の望みでもある俺様生徒会長は、確かにオレの調べでも俺様だったからキスするのかなと思っていたら違った。  パフェを食べ終えて、顔を上げたら至近距離で見つめる茶色の瞳とかち合った。超怖い。ホラーかと思ったら生徒会長だった。いつもの人を見下すような笑顔じゃなく無表情。人の表情がなくなると怖いってオレは初めて知ったね。  でも、自分の顔に表情を乗せようとは思わない。エコです。無理矢理笑えって言ってくる人には身の上話でもすれば絶対に強制しないから助かる。  笑っても泣いても殴られてたので顔が動かなくなりました。  まあ本当のことだし気にせず言うよ。  神様にも飼い主にもみゃーみゃーさんにもオレはデレデレ笑いかけますけどね。ご飯くれるし優しくされるし神様はやっぱり崇めたいし。   『なんでそんなにかわいいんだ。天使なのか?』 『……おい、転入生。おまえって人間じゃなかったのか? エンジェル?』 『オレじゃないだろ。あれ、圭人にいってるぞ』 『圭人っていうのか名前もかわいいな』    キラキラと瞳を輝かせてオレを見る姿に疑問しかない。  俺様生徒会長はどう考えても不在だった。

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