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07 愛も恋もわんわんには不要です。

 四六時中会長と一緒にいたせいで、転入生の動向が上手く把握できずにいた。  そうしたら王道イベントは終了したらしい。  気づけば転入生が転校した。何しにこの学校に来たんだ。蛇さんから報告で知るあたりオレは生徒会長に隔離されていたんだろう。自覚が全然なかった。気が付いたら食堂のパフェの種類が変わっていて、時間の流れを感じたりした。  けれど本当にずっとべったりと会長がオレのそばにいるから、何ができるわけでもない。    親の借金で首が回らない奴に声かけたり、金はあっても心が貧しい奴に声かけたり、気が小さいのに力持ちみたいな奴に声かけておこうと思ったのが全部できなかった。    蛇さんから学生の仕事は勉強だって言われてるから必須じゃないけど、ここ掘れわんわん大金ザクザクっていうのをやりたい年頃。いつもの低燃費を少しだけ普通レベルにしようとしたら会長が阻んでくる。何なんだコイツはと思いながら何だかんだで一年が過ぎて、高校二年のゴールデンウィーク。今ここ。    会長は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど居なくても生きていける。    神様や飼い主が死んだらオレは死ぬ。  死ぬかもじゃなくて死ぬ。  犬ってそういうもんだ。  オレは忠犬だから後追いする。  地獄でも天国でもお供するのがわんわんだ。  迷子なのは子猫さんだけで十分。  犬は泣かずに付き従うのだ。    オレが死んだら会長も死にそうだからちょっと困るかもしれない。でも命ってのは自己責任っていうか、自分だけのものだから会長がどうしようと会長の勝手だとも思う。  でも、オレの行動でどうにかできるなら、きっと阻止するべきなんだろう。少なくとも神様だったら助けられるものは助けようとする。  全てを救うことは出来ないってよく言うし、目の前の存在だけを助けるなんて偽善だとも聞く。手を出すなら最後まで全部責任を持たなければならない。捨て猫を安易に拾うなっていう話と同じで生きているものと関わると責任が生じてしまう。  とある人はこれを「縁」だと言った。    結ばれた縁が良縁悪縁なんであっても神様は神様らしく心が広いから受け入れてしまうらしい。人助けをしているにもかかわらず神様が不幸にならないように取り計らう人がいるのもまた合縁奇縁。オレもきっと神様のシステムの一部に組み込まれている。だから、学校なんて場所に大人しく通っている。いつか意味を持つと言われているから信じているけれど神様を見つめているような仕事がいい。    高校に入学するまでのオレはよく海外に行っていた。嫌がらせと実験だと言われたけれど正直よく分からない。神様か神様の知り合いが学生時代に発表した論文だか何だかの裏付けを取るための行動らしい。どうでもよかったので記憶に留めてはいない。    マフィアと遭遇したり地雷原を突破しなければいけなかったり謎の部族と戦ったり冗談みたいな目にあった。蛇さんに十代前半とは思えないヘビーな体験をしてるって笑われたけれどオレは笑えない。でも、会長から受ける拘束に比べれば全然楽だった。  子供だと思って侮ってくる相手の裏をかくだけの簡単なお仕事だったから指の一本として欠けてない。というか神様がオレをピンチにするはずがない。  飼い主の指示は神様の意向じゃないっていうのは、さすがのオレも十四歳ぐらいの時に気づいた。  神様がオレに「学校楽しい?」って聞いてきたことがある。  普通なら義務教育期間だから、中学の話なんだけどオレは学校に行っていなかった。ただちょうど潜入任務でアメリカのハイスクールに通っていたのでそのことだと思って適当に返した。神様に嘘はつかないけれど本当のこともオレはあまり言えなくなっていた。    今の学園に通うことになる前に知った事実、日本の中学に通っていることになっていたりするオレ。驚きである。ちゃんと自分の戸籍があるということがオレには衝撃だった。高校に通うようになって呼ばれることになった名字は元々のオレのものなのか今回のために作ったものなのか不明。  結構な人間がたちが通う学園なので偽名通学は難しいはずだからオレの戸籍上の名前と同じなんだろう。親権とかどうなっているのか気になってしまったのは秘密だ。オレを製造した人たちと顔を合わせるのはとても気まずいから遠慮願いたい。  オレは飼い主に飼われているわんわんです。  もし万が一にでも親だなんて名乗られてもお互いに困るだけだ。オレは神様に好かれるわんわんなわけだから人間の名前も人間の生活もいらない。  オレのアイデンティティはわんわんであること、だから生徒会長と肉体関係を結んで恋人同士だったとしても優先するのはわんわんであること。  愛も恋もわんわんには不要です。  

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