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09 王道学園を科学するのだ。

「別れるんならアイツに一切バレないようにね? わんわんの大事な処女が知らない間にガキに奪われたとか知られたら大変なことになる。主に僕が」 「今回の作戦って責任者が蛇さんだから?」 「そうですー。蛇さん実はわんわんを危険にさらした疑惑をかけられてミンナから白い目で見られてんのよ」 「疑惑じゃなくて確実?」 「疑問符つけてくれるところがわんわんのカワイイとこだねぇ」  頭を撫でられてクッキーをもらった。ご馳走様です。   「会長さんのご実家はそこそこ有望なとこだから」 「飼い主を変える選択肢とかありませんから」    神様が選んだ飼い主が今の飼い主なわけだから他なんかあるわけない。性的なことに関しては頭がおかしいぐらいに節操なしだけど、アレで飼い主はちゃんと飼い主をしていた。  飼い主の義務それはきちんと責任を持って飼うこと。  あんまり放し飼いもされずに散歩と餌も忘れず与えられ続けたから今のオレがいる。   「そっか……まあ、そうだよねぇ」    考えるような顔をした蛇さんは、ゴールデンウィーク明けにやってくる転入生に関する情報をくれた。  というかオレの元々の目的は、各地で多発するになる「転入してくる王道くん」の確認だ。ネット上の創作物だった存在が現実でも数多く確認されるようになった。  その理由の一つはネットが以前よりも身近になったせいで王道、テンプレ、お約束、そういった設定や世界観の共有化がなされたことが第一。  生徒会役員をもてはやす文化がなかった学校も王道に則り親衛隊を作って、役員を過剰に賛美しだした。最初にやり始めた人間は冗談だったに違いない。悪乗りや愉快犯。ただそれが何世代も続いてしまえば伝統という扱いになる。  卵が先か鶏が先かはともかくとして、各地の全寮制男子校は同じような状況になり、そして転入生の存在で爆発するだけの受け皿は完成する。  各地で問題が起きたとしても外に露見しないようにしているので情報はなかなか集まらない。だからオレは生徒として入り込んで実際問題どうなっているのか探っている。会長のせいで全然収穫なかったけどね。  現実を創作物に寄せようとする存在がいることは問題じゃない。現実にあったことを脚色して創作物にしている人間たちもいるのだから現実との類似点が出てきて当たり前だ。ただ問題は事後処理。    お話だったら困難を乗り越えてみんなハッピーエンド完結あるいは卒業して終わりかもしれないけれど学校関係者はそうはいかない。学校の立て直しや失った信頼の回復とか色々と大変だ。そのあたりをカバーする部署を作ろうかっていうのが今回の話。  オレがするのはビジネスになるのかどうかっていう市場調査みたいなもの。   「王道は問題ないんだよねぇ。王道くんは。問題はアンチ王道ってやつですよ。転入生に引っ付いて機能しなくなる生徒会とか委員会とか金持ちどもとか才能あるやつとかが潰れてく流れ。これは非常にまずいんですよぉ」 「生徒会が機能しない程度で学園がどうにかなるのがおかしい」 「生徒の自治を丸投げしてるから生徒の代表たちが見本となる姿を見せててくれないと学園は混乱するんだって」  大人は無能という話は言っていて悲しくならないんだろうか。  いや、オレたちに金を出すことによって有能さをアピールするのが大人のやり方ってことか。そうか。蛇さんは去年も語ったことを復習とばかりに並べ立てる。 「生徒会が王道でない場合、役員たちが転入生に引き寄せられない分どこか別の人間が被害にあうか単純に転入生が暴れまわる」 「予言書とかあるんですかね?」 「ゼーレのシナリオ通りに……ってそういうことじゃなくて、人間は結構単純ってことでしょ。同じような思考回路の人間が同じような前提条件の場所にいたら同じような行動をとるって話だねぇ」    よく分からないけどオレのするべきことは決まってる。  王道学園を科学するのだ。

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