転入生がオレに絡んでくる理由。 　 　その一、オレに一目ぼれした。はい、これはありえません。残念でした。 　そんな変人は会長だけで十分です。かわいくも格好良くもない普通の顔です。どこにでもいる日本人顔じゃなかったら仕事できないしね。 　蛇さん一押しだけど一番ありえない。 　 　その二、実は会長の知り合いで会長が好きだからオレに親切にするという理由で会長を引き離す作戦。オレのため、オレのためを連呼するくせに会長に対してプラスの発言をしたらダウト。オレに嫉妬してました展開。 　これは情報が出揃わないので保留。 　その三、クラスメイトなんかに聞いたオレの境遇に同情。善意百パーセントのお節介マン。これはありそう。ただし、転入初日でそこまで図太く大きな顔が出来るのは不思議だ。謙虚に生きて行こうという日本的精神が足りない。 　 　その四、親衛隊のようにオレの仕事っぷりを知っている人間。その場合は敵対組織の刺客で、オレを精神的に折るのが目的。別に会長と別れても精神は折れないけど、疲れたりはするかもしれない。あるいは敵対組織の刺客が勧誘してくる流れ。どちらにしてもオレと会長の中を引っ掻き回すのが目的。 　 　その五、組織の末端で愛されわんわんのオレが嫌い。オレを不幸にする使者としてやってきた。または王道展開を構築するために組織が送り込んできたサクラ。蛇さんは知ってて黙ってる。 　 　そして、一番ありえないからこそ疑ってかからなければならない、オレが殺しているオレという存在の製造者関連。 　吉永圭人という人間の血縁者。 　そんなものはいないとわんわんであるオレは主張する。 　けれどオレの戸籍が元々のオレのものであるなら、どこからか漏れ出して近づいてくるのかもしれない。 　ここを釣り堀にするために一年を使ったのなら酷く悪趣味だ。 　けれど鬼畜な飼い主らしい。 　オレが犬にとっての玉ねぎ並に避けるものを突き付けてくるなんて、わざとならゴールデンウィークに顔を合せなかった理由もわかる。飼い主が嘘が下手なタイプだ。 　 　 　 　 　会長がさすがの彼氏様っぷりでオレを抱き寄せたので、転入生とキスすることはなかった。オレのことを抱きしめ慣れているからか、オレの体勢が崩れていようと何だろうと関係なし。 　会長の周りの背の高い親衛隊が壁になっているせいか身長が低くきゃあきゃあ騒がしいタイプからの反応はない。けれど、キスした事実はヒソヒソ伝言ゲーム。ジャンプしてオレたちがどうなっているのか確認したがっているヤツが多数。放課後の教室なのでそろそろ他のクラスの奴らも野次馬に現れるかもしれない。 　 「オレ知ってんだよ！　ケイは親戚でもない男に囲われてるんだろっ。学校の中でもカイチョーに絡まれるなんてかわいそうだ」 　 　爆弾投下してきました。 　盛り上がってまいります。 　デカい声で暴露してくれた事実にヒソヒソ声は音量を増していく。 　噂は悪い方向に広がるに決まっているから、オレは売春野郎クソビッチになるんだろう。慣れた手腕で会長を誑かした犯罪者。 　オレはずっと受け身の流されマグロで、自分から積極的に働きかけたことなんかないから技術的に底辺もいいところなんだけどね。 　少しは恋人に良い思いをさせてあげた方がいいかもしれないと思っても思うだけ。ゲームの方が優先順位高いし。 　 　今すぐにでも帰ろうとしていた会長の動きが止まる。恋人として聞き捨てならないから、それはそうか。握りしめられているオレの指がへし折られそうでちょっと怖い。身体が目に見えて震えてる。会長は興奮したり感情が高ぶると身体をブルブルさせる。怖い。 　 「オレが助けてやるから、オレを信じろよっ」 　 　すでにオレをピンチにさせている自覚のない言葉に呆れる。 　それともこれも作戦の一部なのか？ 　どんな理由を持っていても転入生がオレを地獄に陥れたい死神だっていうのは分かった。蛇さんは言っていた。 　脇役主人公は平和を望んでいるけれど、だからこそ平穏に過ごせないって。 　確かにその通りだ。