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17 風紀が来るぞ!

 物語が主人公の望み通りに展開していたら何の驚きもないし葛藤もない。  読者はどこに楽しみを見出すのか。    ジャンルの違いなのかもしれない。  ほのぼの日常系ならば山も谷もなく平穏な風景だけでいい。  そう例えばペットが主役とかね!!  わんわんとの波乱に満ちたお散歩風景。  美味しそうなお菓子屋さんを見つけて特攻特攻。  デパ地下グルメで目移りしたり。  買い食いしたがりーの、お願いビーム炸裂。  そんなオレと飼い主の日常風景で埋め尽くされてて全然いいよ。  オレと飼い主が仲良くしてるところに以前関係していた女が現れて修羅場とか、男が恨み言つぶやいて来るとかなくていいし。  退いてソイツ殺せない状態になって警察沙汰何回目みたいな扱い受けたりしなくていい。オレはずっとお散歩楽しいですって顔して食べ歩きしてるからジャンルに殺伐とかつかない。   『わんわんの生涯はどこを切り取っても修羅場で平和とは程遠いよねぇ』    そんな風に蛇さんに言われた。物語の主人公もだからこそ平穏を望む。自分の存在がトラブルのもとになることを知って息を殺し陰に潜みたがる。   『わんわんが脇役なら平和だろうねぇ。子育て日記とか』    神様が主役ならきっと世界は幸せだろう。そうに違いない。それを思い出しただけでもオレの心は安らかに変わる。目の前に繰り広げられる恋愛系の修羅場とか初体験過ぎてついていけません。銃弾は避けられても嫉妬心は避けられないオレが悪いなんてそんなことあるわけない。    平和を望む脇役主人公は結局波乱に満ちた青春を送るっていうならオレも変に構えて考えなくてもいいのか?  事態の収拾は誰も望んでおらず、求められているのは暴露による肯定か否定。   「圭人、俺は圭人を信じている」    そう言いながらもオレの恋人は傷ついた顔でオレを見る。オレが男に囲われているという転入生の言葉を信じたからというよりも何も知らない自分に思うところがあるからかもしれない。   「少々、今の発言内容を繰り返させていただいてよろしいでしょうか」    手を挙げて口を開いたメガネ男子は生徒会長の親衛隊長。オレに恩義があり会長から負担をかけられていることを気にしてくれているわんわんの味方。   「ケイは親戚でもない男に囲われてるんだろ」    まさかの展開。繰り返されたのは直前の会長のものではなく転入生の爆弾だった。  さすがに親衛隊バリアという名の背の高い人間による壁が限界をむかえて声の大きな生徒たちがきゃあきゃあ騒ぎ出している。「ユーマだ、ユーマがいる」「いつも帰るの早いもんね」「未確認生物はじめて見た~」「意外にデカい。手のひらサイズかと思ってた」聞こえてきたざわめきにオレは内心で首をかしげる。  ゆーまって誰だ。人の名前は職業柄しっかり記憶していたはずなのに該当者がいない。このクラスじゃない生徒が教室の外でざわざわしているので、オレたちの話じゃないのかもしれない。   「親戚でもない男……親戚だったら男に囲われてもいいとお考えですか?」    光を反射して輝くメガネ。この切り込み方は予想外。相手の発言から崩していくのは正しいのかもしれない。淡々と言い分のおかしさを突いていけば、最初の発言の真実味も薄れてしまう。   「親戚だったら……だって、血が繋がってるんだし」 「囲っているという表現から性的なものを連想しますけれど、こちらの勘違いでしょうか? 性的なことを血縁関係のある方と行うのは普通は禁忌に思うものではないですか。そして私たちのような年齢の人間を囲うと思われるような行動をとるのは、親戚であるというのなら立派な虐待かと思います」 「虐待ってなんでそんな話になるんだよ!」    「性的に手を出していなくても子供の人権を無視した行動をするならそれは立派な虐待行為です。親戚ならいいという発言は血縁者からならどんな非道な行いにも耐えないとならないという思想が滲んでいますが違いますか?」 「違う! オレはケイを助けようと」    拳を握りしめてブルブル震える転入生。対峙している親衛隊長は涼しい表情を崩さない。銀縁メガネのせいか美形というわけではないのにクールビューティーに見える。対峙が退治になるまで秒読みのようだ。   「助けるのではなく侮辱をしにきたのでは?」 「なんで! そんな!! 酷いことを言うんだよっ。ケイはかわいそうなんだ。オレが助けてやらないと!!」    噛みあわない会話になってきた。  さすがに周りがガヤガヤうるさい。  風紀が来るぞ!

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