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18 たぬポン素敵、力持ち。

   風紀より先に教師が四人ほど来た。これはこれで正しい。  感心していたらなぜかオレに責めるような視線を向けてくる。  おい、やめろ。  オレは原因じゃないぞ。  一斉にこっち見んな。   「……プライベートな話を放課後の教室なんて場所ですんなよ」    常識的な反応。口を開いたのは隣のクラスの担任のたぬポン。無精ヒゲがじょりじょりな感じで生徒からは薄汚いと嫌がられたりする。年齢は三十代前半のはずだけど疲れた顔のせいで五十代に見える。  他の教師は口を開く気がないのかたぬポンにまかせっきり。生徒とトラブル起こしたくないっていうのが透けて見える。   「今回の件は人に聞かせるような内容じゃねえだろ」    売春なら生活指導したりする必要が教師にはあると思うけどね。まあオレと飼い主は清い仲です。エロいことの後始末はしても、飼い主とエロいことはしたことがない。一緒に寝たりはするけどそれは犬だし普通?    たぬポン以外の教師は立っているだけ。本当に何しに来たんだ。チラチラとオレを見るのをやめろ。騒動を起こした犯人はそこの転入生だろ。たぬポンは未だにとどまっている生徒を「帰れ帰れ。部活行ったり委員会行ったりさっさと散れ」と追い払う。  たぬポン、お疲れ様。   「あ、吉永。釈明あるなら一言いまのうちにしとけ」    追い払っているとはいってもみんなして耳を澄ましているのは確実。どう思われてもいいとは言えないけれど事実には尾びれ背びれが付きまくるからどうするべきか。   「オレの保護者は過保護です」    そう言うと何人かが息を飲んだ。オレが知らないだけで組織の人間がいるのかもしれない。本当に過保護だ。   「血は繋がっていませんが血よりも濃いものがあるので大丈夫です」    たぬポンに対する言葉は一般的だと思う。なぜか転入生は「嘘だっ」とオレを不幸にしたがる。親衛隊長は厳しい顔をしている。会長は「詳しい話を聞きたい」と抱きしめられながら言われた。オレは飼い主のわんわんだぞ! なんて発言したら首輪をつけられて監禁されそうだから困る。  直情型の子供は人の話を聞かない。  自分の欲求を押し通した後じゃないと冷静に話し合えない。  自分の話をまず聞けと迫ってくる。  二言目には爆弾の起爆装置を押すぞと言い続けたテロリストという名の愉快犯を思い出す。爆弾魔としての能力は高かったが、コミュニケーション能力が最悪だった。そのくせ人と話したがる。テロ行為をしていたのも警察が交渉人を雇ったりするから人と話せるという腐った理由。  仕事で何回か説得作業をしたことがあるけれど、オレに言いくるめられるような奴だからみんな能力が高くても人間力が低い。オレと話が合うとか言い出すのはきっとわんわんセラピー。動物を撫で撫でしてると心がほわほわしてくるよ。    まあ、会長は腰や尻を撫でてきて息を荒くしてるから、オレでセラピー効果は受けてないみたいだ。猫にまたたび?    親衛隊長がさりげなく会長の手を掴んで止めてくれた。  出来るメガネだ。  だが、手は振り払われた!  力関係的に会長に無理強いできるメガネじゃないから仕方がない。コイツがべたべたしてくるのはいつものことだと恋人的な余裕でもってオレは受け流す。調子に乗り出したのか「かわいいかわいい」言いながらおでこにキスしてくる。  何もしてないのに「かわいい」ってなんだ。  おでこが出てる髪型のせいでしばらくは何もしないでも興奮しだすのか?  わんわんは猫可愛がりを認めておりません。猫可愛がりしたいなら猫のところに行くといいよ。オレはわんわんだから構われすぎると疲れるんだよね。   「オレは諦めないぞ!! ケイを絶対に幸せにするからっ」    オレは何度倒されても蘇るぞみたいな不穏なセリフだ。オレを倒しても第二第三の転入生がやってくるみたいな。どこで養殖されてるんだよ。  天然でこれが大量なのはヤバイぞ、日本。   「親の温もりも優しさも知らないんだろ。オレが教えてやるから安心しろっ」    お前はオレの親なのかよ。ドン引きですわ。  たぬポン「そういう話題はやめろって」と転入生を軽く持ち上げて教室の外に放り出す。  たぬポン素敵、力持ち。  

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