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閑話 あえて言うならチャラ男系?
手元に指輪がないから格好がつかないけれど今までのような口説き文句とは違う本気だ。生半可な気持ちじゃない。自分のそばにいる人間が圭人以外に考えられない。圭人が嫌がっても無理やりにでも傍に置きたい。
ずっと一緒にいて欲しい。
「それはオレにお前よりも大切なものがあっても言えること?」
なんだろう、それは家族の話か?
「お前にとってオレが一番だったとしても、オレにとっては一番じゃない。それでもいいって言える?」
思ってもいないことを突きつけられて頭が回らない。
俺よりも圭人にとって大切なものって何だ。
一年間そばにいて俺が知らない圭人のこと。
「オレはかい、……神様が絶対だって思ってる」
神様そう言えば圭人は何か宗教に入っているっぽかった。今まであえて触れてこなかったけれど、一緒にいようと思うならそれはきちんと理解しあわないとならないことかもしれない。
「圭人の神様は男同士がダメとか」
「そういうことは全然ないと思うけど……愛し合ってるならOKだろうし、年齢差にだって寛容だろうけど」
「じゃあ何が問題になるんだ。年間のお布施? そういった出費にはちゃんと理解があるつもりだよ?」
それなりの金額が必要になったとしても、圭人の心が安らかになるなら宗教に金を払うことは悪いとは思わない。どうにもニュースになったり詐欺が横行するから、悪いイメージが付きやすい。けれど俺は宗教を否定したりしない。
圭人が元気に暮らしていくために必要なら宗教ごと俺は受け入れる。人の足元を見て金をせびったりするようなら、圭人に汚いものを見せる前に潰させてもらおうと思う。今の段階では問題は見られない。
「オレはかい、……保護者のことも絶対だと思ってる」
「それはそうだろう」
また泣きそうになる。俺よりも圭人を知っている人間がいるのが涙が出るほど悔しい。圭人を育てたと言えて慕われている保護者が妬ましい。もっと早く圭人に出会って俺が育てたかった。同い年だけど!
「それでもいいなら……そうだな、ちょっと話してみろ」
名案だと言わんばかりに圭人が明るい顔をする。スマホを持ってくるように言われたので大人しく渡す。話してみろっていうのは圭人の保護者とだろうか。マジか。
「とりあえず落ち込んでもパエリアは作れ」
圭人にエビをむきむきすることを想像してなんとか気力を奮い立たせる。聞こえてくるコール音に心臓が高鳴っていく。これは恋? いやいや、俺が恋してるのは圭人だけだ。
「もしもし、あの」
『どうしたやっぱ拗ねてんのか? 一人で寝られねえのか、お前はいつまで経っても……って、はぁ?』
聞こえてきたのは男の色気垂れ流し系ボイス。これがイケボというやつなのか。セクシーな低音にビビる俺に溜め息を吐いている圭人。
『おい、オマエ誰だ』
「圭人さんとお付き合いさせていただいて」
『あぁん!?』
お前が誰だと返したい気持ちを抑えて口にした言葉は低い声で凄まれて消えた。これがデスボイスといいやつなのか。電話なのに思わず頭を下げたくなる迫力。
『冗談とかいいしってかムカつくからイラね』
「かわる」
手を出す圭人に思わずケータイを渡す。無表情だった圭人の頬に赤みが差しているというか心持ちうっとりとした顔。何これエロ過ぎる。
滅茶苦茶感じている時でもこんな顔しないくせに。
「蛇さんから何も聞いてない?」
『んー? オマエが髪の毛切ったって言うのは聞いた。あ、そうだ。写メ寄越せよ、写メ』
「……蛇さんがオレの写真撮ってた」
『そーじゃねえよ。バカだな。自分で写真撮って送るのがいいんだろ』
「何が?」
『オレの写真を待ち受けにしてぐらい言えねえのか、かわいげねえなぁ』
「オレの写真待ち受けにしていいよ」
『こっちが言わせてるみてえになったじゃん。バカわんこ。オマエはもっとオレのことが好きでたまらない構われてないと死ぬみたいな感じでいろよ』
「構われないとシヌー」
『カヌーみたいなやる気ねえ言い方っ。次の週末に帰ってこい。一緒に寝てやるから』
「はいはい、おやすみなさい」
『そこは大喜びして尻尾振りまくって大歓喜するところだろ』
「喜びまくりよ?」
『へぇ、そうかい。……家にいる間ずっとセーラー服着せるからな』
「なんでだ」
とかそんな会話を呆気にとられて聞いていたらいつの間にか通話が終わっていた。
圭人の保護者の声が大きいからか、会話は全部聞こえた。
頭の中が真っ白だ。
言いたいことが言葉にならない。
一緒に寝ると聞こえた。
まるでそれが当たり前みたいに圭人は受け流していた。いいや、圭人の保護者なんだから一緒に寝るのは普通かもしれない。
いやでも、なんだか想像よりも若い声に俺の警戒心がすごい勢いで上がっていく。もっと優しげな老人をイメージしていた。天涯孤独の圭人を助けた優しい宗教家の老人。電話口から聞こえた声は全然違う。あえて言うならチャラ男系?
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