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27 人は使ってなんぼ。

   スリッパのことを考えながらオレは手錠の鎖を鳴らす。  飼い主が気づいたのか会長に外させた。  すでに上下関係が出来ているようだけれど二人はどういう自己紹介したのだろう。オレに会うつもりでこの会長の部屋にきたということは事情を知っているはずだ。けれど飼い主は怒っているようには見えない。オレの恋人だと認識しているなら会長に好意的な飼い主はありえない。どういうことだろう。道具が未使用だからセーフ扱い?   「オマエが男と暮らしてるって弟宮が言うから相手をなぶり殺してやろうと思ってたけどヘタレ童貞なら安心だな」    HAHAHAという陽気で作ったアメリカンな笑いをする飼い主。これはガチだ。完全に分かってない。素の笑い方だ。  いまの作り笑いっぽいテンションが飼い主の普通で格好いい吐息な「ふっ」とか「はっ」みたい笑い方をしたら芝居。見た目と美声から飼い主は自分がどう振る舞うと格好よく決まるのか知っている。   「一年暮らしてて今更そのラインナップって……妄想をこじらせた童貞か? あぁ、自分で使う用か」    拡張用や一人で使えるものばかりだからそう思われても仕方がないかもしれない。そう思われている方が会長の生命は安全だ。  飼い主のブーツはナイフが飛び出したりするので、今この瞬間にでも喉笛グサリができる間合い。だが、モテモテな飼い主は童貞処女や彼氏彼女なしに優しい。  男も女も食いまくりだからこそ独り身で清らかな感じの相手に甘い。死にそうな相手に最後にエロいことしたいだろってオナホを使ってやってから射精と同時に頭を撃ち抜いたりする系男子。逝くとイクをかけるオヤジギャグを真面目にやるのが飼い主だ。   「とりあえず、靴、脱がすよ」    手錠が外れて自由になったので飼い主のブーツに手をかける。スリッパはオレのわんわんスリッパを履かせる。ソファに座らせてテレビのリモコンを握らせた。雑巾じゃなくてモップがあることを思い出す。掃除器具をとろうと玄関へ向かうオレに涙目でついてくる会長。一瞬たりとも飼い主といたくないのか?   「猫は、猫が好きなんじゃない。圭人が好きなんだ」    そこまで根に持ってない。いや嘘だけど。結構ムカッとしたけどね。口でいろいろ言いながら全然だ。コイツはいつになったらわんわん至上主義になるんだ。   「犬一択にするって」 「言った! 証拠のメールもあるから犯罪者は俺だ」    開き直るなよ。モップで床を掃除しながら進むオレの後ろをついてくる会長。お前はさっさとパエリアを作れ。いやそういえば材料が足りないのか?  食堂でイベント発生はありえる話だ。蛇さんは高確率で初日の食堂でなにかがあると言っていた。去年はオレと会長の出会いだったけれど今年は何だろう。   「パフェはまだ届かないのか?」 「そういえば遅いな」    親衛隊長のメガネに電話する会長。繋がらないようで首をかしげている。仕事の早いメガネにしては少しおかしい。   「俺の電話には三コール以内で出るように言っているのに……使えない奴だな」    ナチュラル暴君。  分かりにくいというかオレに対する態度が違うから勘違いするけれど、会長は飼い主側の人間だ。人は使ってなんぼ。  

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