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28 あれでは前が見えない。

  「家の中にあるもので簡単に作って。パフェはいいや」    食堂の様子を確認するよりもオレは飼い主のそばにいることを選んだ。お酒を飲んだならあんまり量を食べないし、早く寝たがるだろうからベッドメイキングをしなければいけない。  シーツや枕カバーは全部新品を出さないと納得しないだろう。夕飯よりも明日の朝ごはん用の食材の方が大切だ。飼い主は朝に完熟トマトがないと怒り出す。フルーツトマトか乾燥トマトでもギリギリ許されるけれどマズいトマトはいけない。    みゃーみゃーさんが神様のマフィンを持ってきたことで気がついておくべきだったかもしれない。飼い主が神様のマフィンをみゃーみゃーさんに届けたんだろう。神様のマフィンはもちろんついでだ。飼い主とみゃーみゃーさんが直接二人で話をしなければならないことってなんだ。そんな重要事項はこの学園にないはずだ。オレが知らないのか、見落としているのか。   「……完熟トマトって手に入るか? 明日の朝までに」 「食堂に言えばなんとかなるだろ。ちょっと待っててね」    あくまでもオレに対するあたりが柔らかい会長。飼い主もブチ切れてもオレを怒鳴ったり殴ったりはしない。ただ耳を噛まれたことはある。  会長の家である魁嗣の系列が食堂だったかと思い出す。だからわがままを通せる。昔からのお抱えシェフみたいなのが学園の食堂に勤めている。食堂も同じ場所にあるけれどフードコートのようになっているので魁嗣以外の企業も入っているから特別会長が贔屓されていると思われていないはず。    親衛隊長のメガネに連絡が取れないからか食堂に電話しようとする会長。これから夕飯で忙しくなる時間帯じゃないのか?  まだギリギリ夕方かもしれないけど。   「俺の電話を取らないだと?」    人望ないんじゃないのとツッコミは心に仕舞う。眉を寄せる会長はわりと男前な顔だけれどヘルメット下の飼い主を思うとどちらか上か悩みどころ。男に必要なのは経験からくる渋さなのかどうなのか。    笑い声が聞こえてリビングに戻ると驚きの光景が広がっていた。  飼い主は何も変わらずフルフェイスヘルメットでソファに座ってテレビを見ている。テレビの内容が全国放送ではありえないものをやっていた。   「左岸……なにが?」    食堂のカメラの映像らしいものが会長の部屋のテレビで見れるのはギリギリそういうものだと理解したとしてもその光景が問題だ。血に濡れた眼鏡。そう、眼鏡が真っ赤だ。あれでは前が見えない。   ------------------------------------------------------------------------- 次話から時系列バラバラ他視点が続きます。

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