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29 ヤバイ、飼い主天才だ。
「28 あれでは前が見えない。」の続きになります。
「左岸……何をしているんだ?」
繰り返す会長にオレも首をひねりたくなった。
テレビに写っているのは親衛隊長のメガネと風紀委員長の熱烈なキスシーン。何がどうしてこうなった。さっきまでアップになっていた血濡れの眼鏡は誰の眼鏡だ。
「オムライスのケチャップだそうだ」
スマホをいじりながら飼い主が的確にオレの疑問に答えてくれた。
ここの学園のオムライスは基本がデミグラスソースとかハヤシライスなのでオーソドックスなケチャップは裏メニュー扱い。小鉢にトマトケチャップが入って届けられる。
ちなみに自家製のトマトケチャップらしいのでメチャクチャおいしい。去年に会長に拉致られる前までの一か月弱でオレは五回はオムライスを食べた。蛇さんから王道だとからかわれても美味しいものが食べたいよね。
時々どうしても食べたくなったら会長に頼んでテイクアウトしてもらったりする。会長が自分の方が上手いとかいって美味しいのを作ってくれるけど違うんだな。
ふわとろ系じゃなくてご飯を包むちょっとしっかりしたタイプの卵をオレは求めているのだ。だから、食べたくなったら自分で作るっていってやってる。そんな時も鎖が外されなかったりするから面倒。
「オムライス食べたくなってきた」
飼い主がいるし、わんわん特製を作るか?
会長が手を挙げた。
「材料ならあるから俺が作ろう」
「ふわとろ……気分じゃない」
「上手く包むのが苦手で」
「破けてもいいからライスをオムでぎゅっとして」
「なんか、いやらしいな。圭人は存在がいやらしいな。淫らな妖精さんだね」
「童貞は病気じゃないが、オマエは病気だな」
サクッとツッコミを入れる飼い主と弁解したいのか、言葉を返そうと無駄な努力をする会長。何も言うな。誤解させといた方がお互いのためだ。
手招きされて会長から隠すようにというよりはいつものポジションとして飼い主の膝の間に座る。ソファがギシギシ鳴るので床に座って飼い主の足の間にいることにした。頭を後ろにそらして立っている会長と飼い主を視界に収める。
「頭で股間刺激すんなよ。セクハラか?」
「あ、そっか。家と高さが違うから」
「勃ったら頭にぶっかけるぞ」
「あ!! 蛇さんが言ってた精液シャンプーってやつ?」
「きゃー!! 圭人っ、圭人ぉ! そんな、そんな単語口にしちゃダメだッ」
奇声を発する会長。飼い主はオレの頭を撫でながら「キモっ」とつぶやいていた。会長はオレを前にすると常にテンション高いからね。
飼い主的には猿ぐつわと赤い縄で拘束したいところだね。うるさい下っ端にいつもそうする。オレはそれを蹴り飛ばして壁によせとく係。
オレたちがそんなゆるい会話をしている中、いつの間にか風紀委員長と親衛隊長が殴り合っている。カメラが色んなアングルから映し出されている。
時々ただの真っ赤に染まった眼鏡の画面になる。
カメラ自体は動いてなくて、食堂に複数設置されていて時間で切り替わるのかもしれない。
「ねーねー、これ音ないの?」
「何その言い方、超かわいい。天使のさえずり? 悪魔の誘惑?」
「音声も拾ってるだろうけど自分たちでアテレコした方が楽しくねえ?」
ヤバイ、飼い主天才だ。
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