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30 高い所から飛び降りる度胸もついたしね。

 こめかみを狙って拳を繰り出す親衛隊長のメガネ。もういっそ眼鏡をメリケンサックのように拳にくっつけてしまえばいい気がする。   「誰の許可もろうおてデカい顔しとるんじゃい、われぇ」    風紀委員長は後ろに身体を引いてメガネの射程距離から外れようとする。頬が赤くなっているのでかすったのかもしれない。そして親衛隊長でもケチャップまみれの眼鏡でもなく周りを見ながら叫んだ。   「者どもであえぇえぇ」    大きく手招きする風紀委員長。動き出す風紀委員。取り囲まれる親衛隊長。なぜかテーブルに座っている転入生。   「オレはどっちにも着くつもりはないぜ」    不敵に笑う口元が見える。  そしてまた画面はケチャップまみれの眼鏡を映し出す。      三文芝居っぽいけれどなかなかいいんじゃないのか?    テレビから視線を外して頭を後ろにそらせる。褒めてくれる時はすぐに反応する飼い主が無言ということはフルフェイスヘルメットで見えないけれどつまらない顔をしているのだろう。うめくと頭を撫でてくれたけれど手つきが雑だ。片手でオレの頭、もう片手でスマホをいじりながら「百点」と言われた。   「何点満点中?」 「一億点中百点」    めっちゃ低い。ショックでうつむくと優しい手つきで耳の後ろをくすぐられる。飼い主の指先はいつもながらに気持ちいいけれど、そのあたりはこの頃ちょっと性感帯な感じになってるからあんまり触らないでおいてほしい。全部会長のせいだ。   「辛口採点すぎる」 「ピッタリ賞狙えないから微妙にネタへ逃げた感じがマイナスだな」 「読唇術ダメって……」 「オカマ風……いや、女子高生風で、はいスタート」    飼い主の期待に応えてわんわんは頑張ります。  会長が床に這いつくばる勢いで近づいてガン見してくるのは気にしない。  お前は自分の親衛隊長というか部下が心配じゃないのか。薄情者め。    眼鏡をつけていない鬼畜眼鏡が、仲裁のように風紀委員長と親衛隊長の間に入ろうとする。  雰囲気は鬼畜っぽくないけれど、泣きぼくろがどうしたところで鬼畜眼鏡。アイツは地味にオレに貢ぎ物を寄越すクセに「慣れ合う気はないぜ」みたいな空気を出すツンデレだ。  こっちが処理できる最大限の問題事を溜めこんでぶつけてくる。デレのツンツン鬼畜。地味に飼い主の愛人ポジションか、飼い主専用の補佐的な役回りとか、最悪でもオレや蛇さん的な位置にいたいと考えている。  組織に貢献したいというよりも飼い主に気に入られようとして必死なあたりが哀れ。  わんわんは何もしなくても飼い主のわんわんですから!! 愛されようとして媚びなんか売りませんからね。猫とは違うんだよ、猫とは。  あ、芸はするけれどね。サーカスへの潜入捜査とか訳分かんないことした時の技術とか、神様も飼い主も大興奮だった。  大きなアクション出来ないから、手先は器用にしとけっていう鬼の教育係の言葉は正しかった。神様の周りは、オレに求める技能が高すぎて殺しにかかっている気がして怖いけど、何だかんだで身になってる。だからいいのかもしれない。  高い所から飛び降りる度胸もついたしね。

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