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31 それはとても神がかっている。
鬼畜眼鏡の乱入に勢いが殺がれつつもツンツンした様子の風紀委員長。
「触らないでよッ、関係ないでしょ!!」
「圭人の高い声っ!!」
「ねえ、マジやめときなって……。今なら謝って終わるでしょ」
「かわいい何これ」
「アンタ関係ないじゃん。よけーなお世話だってのっ」
「はうぁ」
「ぶんなぐるわよ! 口の利き方には気をつけな!!」
「ひゅぅ」
「ったくさあ、前から気に入らなかったんだよね、このマジメちゃん」
「ひゃぁ」
「こんなカッコして清純派ぶってんの? そんな顔して裏ではオトコとよろしくやってんでしょ」
「あうあうあ」
「失礼なこというな!! アンタ誰に口きいてると思ってっ」
「かわいいかわいいかわいい」
「……やめっ。あ、ァっ」
「吐息の入れ方がエロい!!」
「やめなってば!! ちょっと、みんなもちゃんと止めてよ。こんなのまずいって」
「かわいいかわいいかわいい」
「ちょっ、もう!! あたしちゃんと止めたんだからねっ」
ケチャップメガネが現れたことでオレはアテレコをやめた。
風紀委員長と親衛隊長と鬼畜眼鏡の三竦みというよりも、微妙に髪を引っ張ったり、シャツ引っ張ったり、という原始的なケンカをしながら罵り合ってるっぽい三人。
その三人にちょっとずつ声を変えながらアテレコするオレ。そしてそれに興奮する会長。飼い主は笑っているようで足が小刻みに揺れた。
親衛隊長に水をかけて走っていく風紀委員長。
見送る眼鏡抜きの鬼畜眼鏡と親衛隊長メガネ。
鬼畜眼鏡がケチャップメガネを自分のハンカチで包んで胸ポケットに収めた。
ケチャップメガネは鬼畜眼鏡の眼鏡だったらしい。
「眼鏡、汚れちゃった……」
「圭人かわいい」
「よかったら僕のハンカチも使ってください。オレもオレも」
「モブにまで声をあてるとか完璧な仕事!!」
会長はいちいち合いの手がうるさい。お前、録音してるそのデータに入ってるのはオレじゃなく、自分の興奮した声だけじゃないの。黙って悶えろよ。
鬼畜眼鏡と親衛隊長に渡されるハンカチの量、プライスレス。
育ちがいい人間が多いからか、みんなちゃんとハンカチを持ち歩いているらしい。トイレにエアタオルやペーパータオルが常備されていても、ハンカチを持ち歩く系男子。
それも基本が二枚持ち。
憧れのあの人に渡すシチュエーションでも夢見ているのか、そうなのか?
眼鏡を外して濡れた頭をかき上げる親衛隊長。周りがキャーキャー言っていそうだけれど、さすがに間に合わないので声をあてない。
親衛隊長のアップに合わせて、かすれさせた声を出す。
「濡れちゃった……うぅっ」
「エロかわ切ない」
「あんた、ちゃんとあの子に謝っときなよ」
「かわいいかわいいかわいい」
「わたし悪くないもん」
「……おぉぉうぉぉぉ!! 拗ねた声とかぁぁ」
「さすがにちょっとうるせぇぞ」
飼い主に踏みつけられる会長。そりゃあそうだ。
もふもふスリッパでもさすがの威力だったらしくて会長は床に撃沈したまま戻ってこない。飼い主に許可をもらって寝室から持ってきたかけ布団で簀巻きにしておく。ロープとか拘束系のものは一通りそろった恐ろしい部屋だから楽勝。
「今回は?」
「十点」
得点が一気に下がった。
やっぱり男を取り合っている感じにするべきだった。「カレはわたしが一番だって言ってた」「うっさいのよ、誰にでもマタ開く病気持ちが!!!」「やめてそんな話しないで」「良い子ちゃんぶってんじゃないわよ。あんたがカレとキスしてるの見たんだから」「違う、アレは事故で」「そっちこそ何人も男くわえこんでユルユルのくせに」とかそういう下品系。
鬼畜眼鏡が純情系なのはあえてのギャップ狙いのギャグみたいな。
「十点中十点。……ほぼ内容そのまんまだってよ」
「え? それは引く」
アイツら食堂で何やってんだよ。
「……ん、もしかしてホモの痴話喧嘩?」
「いや、……まあ、そうとも言えるか? ケンカの原因はオマエだけどな」
ケンカはケンカでも痴話要素はないらしい。
オレが原因であの三人がこじれて、転入生が笑ってるなんてありえるのか?
「転入生が爆弾を仕掛けて食堂にいる人間全員と心中したいってよ」
なるほど、それで三人でケンカの振りして、一人を外に出したと。
口論の理由は何でもよかったんだろう。鬼畜眼鏡以外なら今日に顔を合わせた人間だ。転入生にも自然ながらの仲間割れに見えるだろう。
「爆弾は本当にあったけどすでに取り外し済みだ」
組織は優秀すぎて三分クッキングみたいな話になるからいけない。
蛇さんが嘆くわけだ。
立てこもり事件で数時間なんてこともなく「こちらにすでに出来上がっているものがあります」と言われてしまう。
鬼畜眼鏡が時間を稼いでる間に他で誰かが動いていたのだろう。
学園内が実験場とはいっても、大多数の生徒には関係のないことだ。何か問題が起きたとしても長く続いた家なら脅したり、お願いしたり、色々と融通を聞かせてもらうことが出来るネタや人脈がある。
普通の学校だとニュースになることでも、生徒たちの将来のためということで揉み消すのはたやすい。
「転入生は爆弾があるから動くなって言って、それに対して三人で揉めだしたってシナリオ?」
「その通りだし、そうじゃない。……行ってこい機械仕掛けの神様 」
機械仕掛けの神様 というのは恥ずかしい話オレのコードネームみたいなものだ。
わんわんはオレが指揮する場合の部隊名として使っている。大体の場合、ソロ活動で誰かと組んだり誰かを使ったりすることは少ない。今まで十回あるかないか。そのどれもある種の実験をするためでもあった。
幸福というものは目には見えない。
だからこそ掛け算ができるのか、足し算ができるのか、割り算ができるのかを考えている人たちがいる。
引き算ができるのは確実であるというのが彼らの言い分。
蛇さんの同類にあたる天才的な頭脳を持つ彼らは、莫大な資金を投入して、幸福の貯蓄の仕方を探している。蛇さん曰く彼らは答えが出ていることの途中式を求めて、あれやこれ、だとか。
九死に一生をえた人間を追いかけ回す彼らは、あまり良い人間とはいえない。
どうして君は生きているんだと考えたことはあるかと聞かれたことがある。全部神様のおかげだと言えば彼らは満足する。同時に証拠を求める。神様が周りに与える幸福がメンタル的なものではなく、現実に影響を及ぼすものなのだと、証明したがる。
これもある意味では神様への愛なんだろう。神様を特別視したがるからこそ、オレが神様から恩恵を受けた人間であるとデータで見たがる。
どんな状況でも解決できてどんな状況でも死んだりしない。それはとても神がかっている。
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他視点を読んでいて食堂での出来事を拾っていると「アレ?」って感じになりますね。
それは、もうちょっと、あとで……です。(ちょっと遠い)
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