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閑話 ここには圭人しかいない。
次話に「24 種類が違う愛もあるのかもしれない。」で
「なにやら玄関で言いあっている~」というところの詳細があります。
目が覚めるとソファで圭人がテレビを見ていた。朝にテレビをつけることがないというか、俺が圭人の声が聞き取りにくくなるのが嫌だから、テレビを見ることがあまりない。何だか、新鮮な気分になる。
起き上がると身体の節々が痛い。
寝室からリビングまで寝ぼけて転がったのなら、身体が痛くなって当たり前かもしれない。いや、昨日は寝室で寝た覚えがない。じゃあいつどうやって眠ったんだ。記憶があいまいだ。
これは圭人と出会う前の俺のよくある朝の光景。
俺は昔から不眠症気味で薬を処方されて、あまりにも眠れなくてつらい時には飲むことにしている。子供の内からそんなことではいけないと内密にカウンセリングを受けたこともある。病名のつかない病気というのは多くて、俺の、この眠りが浅く眠りにくい状態は医者を悩ませるだけで解決策はなかった。子供の病気はある日ふと治ってしまうことがあると聞かされた。けれど両親は納得していなかった。立派な強い子供を産んだという気持ちがあるからかもしれない。
心因性で不眠症になっているならと、両親は俺へのストレスを避けるために過剰な程に甘やかした。幼いながらに、これはこれで気疲れすると思いながらも俺は受け入れていた。たぶん、両親から向けられるものをそれほど重視していなかったからだろう。
今まで両親に俺が選んだことを否定されたことはないし、俺の嫌がることを望まれたこともない。
恵まれた生活の中でも俺の眠りの浅さは改善されなかったので両親は空回りしただけだ。それでも、俺は取り立てて努力して眠ろうとはしない。もらえば不眠解消グッズは使うけれどぐっすりと眠れたことはない。
寮生活の中でも俺は変わりない。人と一緒に生活するのが嫌だった。人の気配があると眠りにつけない。人の寝息が近くで聞こえるなんて、気持ちが悪くて仕方がなかった。
生徒会役員や成績優秀者の一人部屋は自宅と比べれば狭かったが、一般生徒のように二人部屋は耐えられないので助かっていた。
積極的に不眠を解消しようとしないのに人から睡眠妨害を受けると嫌になるのが俺だった。
それになるべくなら人に弱みを見せたくない。睡眠不足の俺が不機嫌さから高圧的な態度で人と接するせいで、俺様生徒会長なんて言われ出したりしても変わろうとは思わなかった。
そんな俺なので中学の頃はよく眠れずにソファで本を読んで時間を潰し、いつの間にか意識を失い床で目覚めて身体を痛めていた。起きたばかりはいつでも今日のように身体中が違和感に包まれる。
俺はなかなか眠れず横になっても頻繁に寝返りを打つタイプ。
逆に圭人は静かに早く眠る。
寝入ると死んだように動かない。寝入った圭人の起きている時よりも感情の見えない姿に不安になって、触りまくって嫌がられたのは一度や二度じゃない。
もっと正確に言えば「明日なら付き合ってやるから」と言われて「静かにしろ」と抱きしめられる。無意識なんだろうけれど、圭人が自分から抱きついてくれて嬉しい。
圭人の、寝息というには小さすぎる吐息に全身が歓喜する。
圭人の寝息を録音して編集して聞き続けたい。寝言を口にすることはないけれど、寝苦しさを感じた時に見せる呻き声が情事の時を思わせて艶っぽい。明日と約束されたので俺からは手出しできないけれど寝てても起きても圭人はかわいくいやらしくかわいくてかわいくてかわいい。
眠れない夜の俺の一方的な求愛を圭人は切り捨てたりしない。明日と言ったら明日なだけだ。約束は守られる。事前に一言あれば大体許してくれるのが圭人だ。天使的な神々しさを携えて、悪魔的な艶めかしさで堕落を誘う。
寝ているところを起こしても怒ったりするようなことのない圭人。
感情を見せなてくれないのかと最初は落ち込んだりもしたけれど、圭人がかわいくて理性はいつでも家出中。今は鎖につないでいてもいなくても一緒のベッドで寝てくれる。お願いしたらかわいい服も格好いい服も何だって着てくれるし写真撮影も許してくれる。
圭人はいつでもかわいくて優しいから俺の愛も欲望も収まることがない。
余裕のある大人にはなれそうもないと思って気がつく。ここには圭人しかいない。
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