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閑話 何も深く考える必要はない。

24 種類が違う愛もあるのかもしれない。」で 「なにやら玄関で言いあっている~」というところの詳細があります。       「けい……と?」    声がかれている。意識のある自分がとんでもなく興奮して騒ぎまわった記憶が蘇った。圭人の保護者の前での失態。静寂を尊ぶと言われている人の前で大声を出すなんてあってはならない。でも、仕方がなかった。アレは仕方がない。誰だって取り乱すに決まってる。    自分のスマホをいじる。   『……っ、らめぇ、いじらないで! でちゃう、こぼれちゃうからぁ』    天使降臨の合図だ。  俺が野獣になる準備は出来ている。   『だっ、だめって、いったのにっ。いっぱいでちゃった。……もう、ベタベタ』    ちゅぱちゅぱと聞こえる音に下半身が反応しないのは男じゃない。下が指先に絡みついて舐めとっているのが簡単に想像できる。吐息は艶めかしく水音の合間に入っている。  静かにして待っているとふてくされた幼い声が小さく「いじわる」とつぶやく。かわいすぎる。後世に語り継ぎたい可憐さだけれど誰にも聞かせたくない。   「懐かしいな、データ貰ったのか?」 「いや、玄関で録音させてもらった」 「気に入られたんだな」    音声には驚いた顔を見せなかったのに保護者に関連するからか圭人はいつになくやわらかな雰囲気で俺を見てくる。誘われているとしか思えないけれど、ここは家族の話題に和んでいる所だろうと気持ちをセーブする。   「声変わり前だよね、すごいかわいい」 「……ちょっとした罰ゲームだ」    圭人に抱きついて耳をはむはむする。  くすぐったがる圭人に俺は全く無反応だった去年を思い出す。少し体が熱くなっている圭人にスマホの着信音にされていた音声を流す。「もうやめろ」と唸るように言われて俺は止める。圭人に嫌がらせをしたいわけじゃない。ライダー姿の圭人の保護者と対面したことが嘘じゃない証を確認したかっただけだ。    玄関を開けて不審者かと思ったら着信音が明らかに声変わり前の圭人と思われるもの。これはどう考えても保護者だろうと俺は玄関先でフルフェイスヘルメットで顔の分からない相手に土下座して圭人の音声データを録音させてもらった。  興奮に手が震えノイズが入ってしまったと三回やり直させてもらえたのは奇跡だ。  元のデータはもちろん欲しいがそれは少し図々しいだろう。多少音質が悪いぐらいが、俺には丁度いい。良質な音だと圭人がいるのに圭人で自慰をしてしまうかもしれない。それで圭人に嫉妬されるならいいけれど、ペドフィリアだと誤解されたら破局の危機だ。    幼く舌足らずでもごもごぴちゃぴちゃといやらしい天使と悪魔の両面を併せ持っている圭人はもちろん愛してる。あどけなさが前面に押し出されてあざとい限りの天使の拗ねた声。声変わり前の透き通るソプラノボイスは天上の調べよりも美しいに決まっている。    圭人だからだ。  圭人だから俺はこんなに興奮するんであって、今の圭人を否定したいわけじゃない。変声期で変わってしまった声は元には戻らない。過去の圭人を賛美することが今の圭人を貶めることになるとは思わないけれど気にしてしまうかもしれない。時間を巻き戻したいなんて圭人が思ってしまったらそれは俺が原因だ。    違うんだ圭人、俺は圭人だったら過去も未来も現在も全部大切なんだ。   「圭人が嫌がるならデータは消すよ」    イヤだけれど。本当なら手足をもがれても保存したい音声だけど圭人が嫌がることはしたくない。保護者様にもそう約束させられた。   『お願いです!! 俺に出来ることなら何でもします。録音させてくださいっ』 『土下座って…………これが若さか、童貞力か』 『地位も名誉も何もいりません。その音声をください』 『そこは地位も名誉も権力も後ろ盾も取り付けた上で音声も入手しろよ。値切りは基本だぞ』 『値切りません!!』 『はぁ?』 『圭人の価値を上げることはあっても下げることはありえません』 『……ほぉ、アイツに話しかけんな触んな近づくなって条件でも飲むのか』 『それは俺には出来ないことですから無理です。息を吸うなということは死ねということです。死んだら声を聞くことも出来ませんから音声を録音する受け取る意味もありません』 『屁理屈か』 『この世の真理だと思います。圭人以上に大切なものはないので圭人に関連しない俺自身の事ならいくらでも持っていかれてかまいません。俺に必要なのは圭人への愛だけです』 『……学生は純愛ノリが流行ってんのか? まあいいけどな。アイツが嫌がったら消しとけよ』  そう言って保護者様は持ってきてくださったダンボールを開封した。俺のプライバシーは俺のものなので侵害されて構わない。  何を購入したのかその時は忘れていたからこその油断。ゴールデンウィーク中に自分のエロテクニックに関する不備を思い当って頼んでいた。送料がかかってもいいから早めを指定したのでゴールデンウィーク明けであるあの日に届いたのだ。当日便なら夕方や夜間に届いたりするから不思議じゃない。    俺への郵便物は左岸兼平が回収して、まとめて持ってきてくれるのでエビとパフェと共に俺に届くはずだった。  保護者様が持ってきてくださったのは寮の管理人から荷物のことを聞いたからかもしれない。寮の管理人は長年同じ人でもうだいぶ高齢だ。みんな気遣って時には介護のようなことをしているぐらいなので、保護者様も親切心をお出しになったに違いない。    荷物の中身がアナル拡張系とイロモノコスプレセットだった件については肩を叩かれた。  ヘルメットが光を反射して、その奥にある表情は分からない。けれど、とてもかわいそうな目で見られた気がする。俺の空気を読む力は弱くはない。溜め息を吐くような動作の後に「妄想だけはいくらでもしろ」と快く録音の許可をもらった。  天使を育てたのは神様なのだと音声を録音させてもらいながら思ったものだ。     「チョココロネ……食べるの下手だったんだ。今はこぼさない」    録音した音声とは高さの違う声。  でもかわいらしさはかわらない。照れているんだろう圭人は俺のシャツを軽く引っ張って「風呂入って。その間に何か作る」と言ってくれた。  チョコクリームで口元が汚れても俺が舐めとるから圭人は全然気にしなくていいと思う。むしろチョコまみれにするから俺の指をしゃぶって欲しい。  小さい舌でぺろぺろして口に指を出し入れして、はしたない音を立てながら物欲しそうな瞳に俺を映して欲しい。神性を脱ぎ捨てた野蛮なまでの淫らで卑猥な姿の圭人はこの世界の誰よりも美しいに決まっている。   「エビは冷蔵庫にあるからお昼パエリア?」    首をかしげる姿が死ぬほどかわいい。一緒にお風呂に入りたいけれど圭人からは良い匂いがするので朝にシャワーを浴びたのかもしれない。時計を見るといつもの俺の起床時間。いつに寝て何をしてても起きる時間は同じなので遅刻をしたことはない。   「夕飯ではダメか? 今から仕込んだら……」    圭人のためなら一時間目を昼食作りに費やしても構わない。それなら温かいものを食べて欲しいから昼食の前の授業を休むべきか。俺の悩みが伝わったのか圭人が首を横に振る。   「あぁ、違う。今日は休みになったんだ。夜と朝に連絡きた」    、寮と学園の距離がどれだけ近くても外出禁止な台風並みの事態があったらしい。細かいことはいい。今日は圭人とずっとイチャイチャできるということだ。何も深く考える必要はない。  

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