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閑話 ないわけがない。

「いつもより変態度が高い」    無表情でズバッと言われた。そんなはずないけれど圭人が言うならそうなんだろうか。いや、でも、俺は普通だ。平均的などこにでもいる男だ。ちょっと圭人という地上に舞い降りた天使に心を奪われて恋の奴隷になっているけれど仕方がない。誰だってそうなってしまうぐらいに圭人が魅力的だからこれは当然のことだ。誰にも見せないように触れ合わないようにがっちりガードしているから俺の圭人は俺だけのものだけれどかわいい圭人をかわいいと思うのは変態でも何でもない。かわいい圭人に触れたいと思う欲求を抑えないのだって人間として当たり前のことだ。   「まあ、いいけど。……はい、あーん」    きっちりと服を着込んだ圭人はテーブルから俺の膝に戻ってきている。半分残してくれたサラダをフォークで俺の口元に運んでくれる。この時に思うのが一口に入れる分量が食べきれない量にならないことだ。すごく食べやすい。自分で食べるよりも圭人に食べさせて貰う方が早く食べ終わる気がするぐらいにスムーズだ。誰かに食べさせ慣れているのか俺の食べる量を把握しているのか謎である。    圭人は介護の経験があると言われても納得しそうな程度に知識はあるし料理も作れる。掃除も洗濯も問題ない。ただ俺が動いて欲しくなかったので圭人を鎖につないで家事をさせないでいた。代わりに俺が動けば圭人は褒めてくれるし問題ないと頷いてくれたので自分なりに頑張ってきた。一年の一学期は食堂からのデリバリーが多かったけれど夏休みの間に短期間、研修の名目でホテルと旅館の厨房を経験させてもらって包丁の使い方や料理のコツは覚えた。    ただ圭人はネットで拾ってきたレシピの家庭料理のようなものが一番受けがいい。ちょっと味つけに失敗したと思っても何も言わずに食べてくれる圭人はかわいく男前だ。   「圭人が裸エプロンしてくれてもいいよ」    圭人は普通にシャツにズボンというラフな格好。俺は裸にエプロンという男のロマンの体現者。  見た目が寒いと言われたのでキッチンから持ってきたエプロンをつけただけだ。服を取りに行くために圭人から数メートル離れないといけないのも嫌だった。去年は室内で手錠で繋がったまま生活することもあったから、それに比べると今はだいぶ耐えられている。   「変態ってか、オヤジっぽい?」    いつもの俺との違いを圭人も感じているらしい。これは一歩前進だろう。エッチはスポーツじゃない。エッチは二人で気持ちよくなって愛を確かめ合う作業だ。エッチの最中にケータイいじられるなんて俺のリードがなってないからだと色んなプレイを試してみたけれど問題はそこじゃない。圭人のアナをしっかりガッチリねっとりと解して広げて優しく愛するところから始めるべきだった。俺が締め付けがキツいと感じたら圭人は俺のモノが大きくてつらいと思っていたかもしれない。そういったことに自主的に気づいていくのが夫婦への第一歩なんだろう。   「テクニックを見せつける時が来たんだ」 「童貞疑惑がイヤだったのか?」    圭人の保護者から言われたことは特に気にしていないけれど俺の代わりに圭人が気にしてくれていたらしい。やはり天使。優しさが神々しい光を放っている。   「ああいったのは挨拶みたいなものだろうから気にしていないよ」    言いながら圭人のお尻を揉むとフォークを持つ手が揺れた。感じてくれていることに感動する。圭人に気持ちよくなって欲しい。それなら尖ったフォークは危ないかもしれないけれど圭人がちゃんと危ない時は危ないと教えてくれる。圭人が何も言わないのならそれは大丈夫だということ。   「気にしてたんだと思った……」 「ありがとう」 「いや、気にしてないならいいけど、その、ぐにぐにやめろ……漏れてくる」    珍しくエッチの最中に圭人が目を泳がせる。    温感タイプのローションを「俺に中出しされたと思って受け止めて」と圭人の中にいっぱい注ぎ込んでアナルプラグで栓をした。その上で服を着てもらったので表面上は普通なのに動くといやらしい音が圭人の下半身から聞こえてくる。アナルプラグをしていても刺激を与えればローションがアナから外にこぼれてくる。    圭人的に下着が汚れたりするのが恥ずかしいらしい。  かわいく「うー」と唸ったりしてお漏らしをしたように濡れていく下半身を見ている。    何か言葉を探しているのか俺にサラダを食べさせながら圭人の視線が忙しなく動く。両手で圭人の尻を中のアナルプラグにこすりつけるように動かせば圭人はフォークを取り落とした。ものすごくかわいい。   「圭人、コレ……イヤだった?」    圭人の尻を揉めば揉むほどローションがこぼれていく。   「イヤっていうか……なに、どうしたいわけ……」    いつも自分の暴走する欲求を圭人にぶつけていたから今日は余裕ぶっている。本当はアナルプラグなんて引っこ抜いて自分自身を挿入したい。俺で圭人をいっぱいにしたい。でも圭人がそれで痛い思いをするのは嫌だ。まずはアナを拡張して圭人の負担を少なくしたい。大人が玩具を使うのは若者よりも持久力がなかったりプレイをマンネリ化させないためだろうけれど   「圭人に気持ちよくなって欲しくて」 「……最近はそんなに痛くない」    素直な圭人は時に残酷だ。真実とは人の胸に突き刺さるもの。  最近はそんなに痛くないなら以前は痛かったわけだ。気づかなかった俺が全面的に悪い。でも、今日からは堪え性のない子供は卒業した。したと思う。きっとそう。    サラダも食べ終わり食器を片付けて寝室のベッドの上。  これからくんずほぐれずイチャイチャしっぱなしだと思ったら珍しく圭人に電話がかかってきた。   『おい、早く出ろよ。おい、早く出ろよ。おい、早く出ろよ』    めっちゃ格好いい着信音は思い起こすと昨日の圭人の保護者の声だ。こんな美声が何にも居ては堪らない。てっきり有名人の着ボイスをダウンロードしているんだと思っていた。意外に節約家なのかもしれない。    でも、俺が押し倒して圭人の服を脱がしたここからって時に電話に出なくてもいいと思う。俺が圭人の声を人に聞かせるのイヤだって知っているくせに。小悪魔ちゃん!!   「チャッピー? あ、飼い主?」    声が弾んでいる。無表情なのに声のトーンがいつもと全然違う。昨日もテンションが高かったそんな気がするけれど圭人のテンションを上げさせているチャッピーってなんだ。   「遅くても十四時にはこっちを出る。……もっと早く?」    俺を見る圭人。さっさとパエリアを作れってことかな。材料はあるから今から準備をすれば食べる時間を考えても十二時には出られるかもしれない。圭人が早く出かけることで早く戻ってきてくれるなら俺も送り出すのはやぶさかではない。   「でも、昼はパエリアだから……」    俺のパエリアがチャッピーに勝った。もうそれだけで今日の夜に圭人がいない孤独を癒せる。   「チャッピーの散歩はちゃんとするってば……うん、風呂も入れる」    圭人は語らないけれど実家に帰ることが多いので何か飼っている気がしたけれどこれは間違いない。チャッピーは犬だ。   「ご飯は……夕飯はちゃんと俺が作るから。みんなのも? 分かった、約束する」    電話を切った圭人が「十三時にはこっち出ろって」と申し訳なさそうに言った。  食べたり着替えやシャワーの時間を考えると十一時にパエリアが出来上がっていればいいだろう。圭人はよく噛んで食べるから食事にかかる時間が大体四十分ぐらい。パエリアなら四十分間ベタベタ触っていても怒らない。    圭人はメニューによって反応が違う。パフェを食べている時は後ろから抱きしめるのは嫌がるけれどお腹に抱きついていたり膝枕は許してくれる。「大人しくしていろ」と背中を足置き場にされたことは三回ぐらいある。背中に圭人の温もりが感じられるのはそれはそれで構わないけれど圭人の顔が見れないのは惜しい。   「チャッピーとは仲がいいの? 何歳ぐらいなんだい」 「まあ、長い付き合いだからな。……チャッピーは、たぶん四十後半?」 「……あぁ、八歳ぐらいか」    不思議そうな顔をする圭人はすごくかわいい。犬の四十代後半は八歳ぐらいのはず。犬に対して人間みたいな言い方をする圭人はかわいい。   「もう人生も折り返しだから大切にしてあげたいよね」    俺は圭人の犬を大切にする気持ち、ちゃんとわかってるよ。  下半身がグチャグチャトロトロで俺に今すぐ挿入して欲しいとか言ってくる圭人を想像したけれど、そんなことあるわけなかった。今まで圭人がおねだりしてくれたのはお酒とか薬とかでふにゃふにゃな感じの時だけ。素面な今の圭人が俺を激しく求めてくれるなんていう幻想、あるわけなかった。   「圭人、これ使って気持ちよくなって」    バイブ機能付きのアナルパール。本当は俺が入れたり出したり振動させたりして煽ったり焦らしたり圭人の反応を見たかったけれど今は引くときだ。余裕を見せるためには今までのようながっついた姿勢はいけない。というかオモチャを出入りさせてたら嫉妬でオモチャを壊して圭人にお仕置きエッチする自信がある。理不尽だとしても好きな相手には自分だけで感じて欲しい。   「いいけど、会長は?」    勃起している性器を撫でる純真無垢なかわいい小悪魔の誘惑に俺の付け焼刃の余裕は蹴り飛ばされた。圭人がかわいいから仕方がない。無表情のまま瞳は潤んでいる。キスをすれば頬は赤くなって息を乱す。それがたとえ息苦しさからくる反応だとしてもほぼ喘がない圭人が唇が離れた瞬間に見せる吐息の乱れは堪らなくかわいい。キスばっかりしていると俺に身体を持たれかけて脱力する。情事後の雰囲気を思わせる圭人の隙のある姿は抗えない魅力がある。   「見るだけでいいの」 「無理。触りたいです。撫でまわしたいです。むしゃぶりつきたいです」 「……お手柔らかに、な」    俺の頭を撫でる圭人。甘ったるい空気が漂っている。というか、寝室が本当に甘い香りがする。聞くと圭人の保護者が使っている香水らしい。寝る前に蓋を開けた香水瓶を枕元に置くという。桃の系統の匂いは昨日までなかったものでなんだか寝室が汚染されたというか浮気された気持ちになる。    余裕、手加減、優しさなんかを取り入れたはずの俺は何処かに消えた。俺が圭人の足にキスしている間に圭人はケータイでゲームをし始めた。いつも平気な顔で寝そべっている圭人を抱き潰そうという気持ちでエッチをするのに身体が重くて動けないと訴えられたことはない。   「舐めるのって楽しい?」    キスの後とのように乱れた息が見たくて性感帯といわれる部分を指や舌で刺激してみても圭人はこれといった反応を見せない。   「圭人に触れるのが楽しい」 「そう」    興味がなくなったように俺の存在をシャットアウトするような圭人。照れているんだろう、そうに違いない。    圭人のアナニーを視姦しようという試みは圭人のかわいく遠慮深い誘い文句で失敗に終わった。俺の技量不足なのか堪え性がなかったからか朝からやり始めたのがいけなかったのか。  いずれは圭人がアナニーをしつつ俺の名前を呼んで「オモチャじゃ物足りない、意地悪しないで入れて」みたいなドキドキ展開があるはず。きっとあるはず。ないわけがない。

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