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閑話 一部始終を聞くとしよう。
「けーと、パエリアできたよ。デザートはイチゴのババロア」
浴室に声をかけるとバチャバチャと水の音。湯船に浸かって寝てしまっていたのかもしれない。身体を洗って圭人の中に出したものを掻きだして、いつもならソファに連れて行く。今日は湯船にいるというので圭人を残して俺はランチの用意をした。
「……ん、ちょうどよくお腹空いた」
圭人は結構お風呂が好きで湯船の中で寝る。俺が溺れないように支えると言って浴室で抱きしめているとありがとうと言いながら寄りかかってくれるので本当にかわいい。かわいすぎてエッチなことをしたくなるけれど身体を洗った後はダメと舌足らずに断られる。かわいすぎる。ちなみに身体を洗い終わる前までならいくらでも許してくれる。洗っている最中のエッチなボディタッチがいいなら入浴中のまったりタイムを激しくしてもいい気がする。
「帰りはやっぱり朝になっちゃう?」
「納得してたんじゃないのか」
「お家の事情は仕方ないけどさー、さみしーいよー」
実家に帰る前は跡をつけるのは禁止なのでいつもの目に毒な風呂上がり姿とは違うけれど何度見ても好きな相手の裸にはドキドキする。行為の最中もなるべく脱がない派の圭人なので一糸まとわぬ姿を嘗め回すように見ることが出来るこの時間は約得だ。でも淋しいから身体をタオルで拭きながら俺は泣きつく。
さみしいさみしい。圭人とずっと一緒にいたい。
俺が圭人の望むオムライスを作れるようになったら実家に帰らないでいてくれるんだろうか。いいや、実家に帰るのは良いんだけど淋しいんだよ。十分に一回ぐらいの頻度でメールしてきて欲しい。
「髪の毛かわかしてあげる」
「いいよ、食べろよ」
「圭人が食べさせて」
「エビの尻尾食べろ」
どういうことかと思ったらエビを咥えて圭人は俺を見た。キス待ちの顔に見えたので引き寄せられるままに顔を近づけるとエビの尻尾が口に入る。圭人が噛み切ったのかエビの尻尾部分だけが俺の口の中にある。あれっと思いながら吐き出すことも出来ないので尻尾を噛む。フライパンで炒めたからカリカリで食べられないことはない。
「ん」
またエビを咥えて俺を見る圭人。俺の手は圭人の髪の毛にドライヤーをあてていたけれどそうじゃなかったら両手でテーブルを叩いて悶えただろう。かわいい。今まで頼んで口移ししてもらったことはあるしスプーンで「あーん」して食べさせてもらうことはあったけれど二人で一つのモノを半分こ。それも口でなんて、なかった。初体験だ。ちょっとエビの尻尾が歯茎に刺さって痛いと思ったりしたけど関係ない。圭人の「ん」がかわいすぎるから血の味とかどうでもいい。
エッチな感じに食事したい気持ちをグッと抑えていた俺に我慢するなと言わんばかりに行動する圭人の優しさはやらしい。
「あぁ、離れがたい」
黙々食べながら時々スプーンで俺にも食べさせてくれる圭人。間接キスにドキドキする。髪の毛を切ったせいでうなじや耳のあたりが隠れずに出ていて卑猥だ。横から見ていて人の情欲を煽るための造形にしか見えなくて困る。これは席替えをさせないといけないかもしれない。体育で汗でしめった圭人の姿に興奮しない人間はいない。誰でも汗を舐めとりたい、キスしたい抱きしめたい匂いを嗅ぎたいと思うはずだ。
「体育はこれから見学にしよう。危険だ」
「今まで平気だったんだからこれからも平気だろ」
「そうだね、何故か平気だったけど……今日が大丈夫でも明日はダメかもしれない。飢えた獣に圭人を襲わせるわけにはいかない」
「自分のこと分かってんだ?」
「俺は飢えてないよ。四六時中圭人と一緒だから満たされまくりだよ」
ミックスジュースを飲みながら圭人はババロアを催促してきた。時間的にデザートを食べて歯を磨いて十二時半というところだろう。
圭人を見送ったら左岸に今日が休みになった理由というか、食堂であったことの一部始終を聞くとしよう。
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