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第3話 ハロウィンの子ぐまさん
なにも、アオは森に迷い込むために子ぐまの恰好をしていたわけではありません。年に一度フィトの街で行われるハロウィンに参加するためにこの着ぐるみを作ったのです。
気が付いたらいつもひとりぼっちだったアオは村の人間たちから煙たがられていました。この地域では珍しい緑の瞳を人々は気持ち悪いと言ったのです。
ハロウィンは、そんなアオが着ぐるみや衣装で姿を隠して皆と同じように楽しい時を過ごせるイベントでした。幼い頃からアオは毎年この日を今か今かと待ち遠しく思っていたのです。
そのことを聞くとカーネは目の前で揺れる栗色の髪を撫でました。
「アオ、お前は特別な存在だ。この森には欠かせぬ者。人間たちに混じれなかったのは、お前が人間ではないからに違いない」
「え……」
「この森が魂を失ってから何年も経つ。見ての通りだ。魂を失った森は色と生きる気力を失う」
アオの顎を持ち上げるとカーネは赤い唇に口づけをしました。
するとどうでしょう、足元に小さな花がぽつぽつと咲き始めたのです。
「ほら、この通り」
「どういうこと?」
「魂に命を吹き込むと森が生き返る」
「ぼくは人間じゃないの?」
「ああ、お前は森の魂、そして私は森の命だ」
迷子になっただけでもとんでもないことになったと思ったアオでしたが、今年のハロウィンはそれだけでは終わらないようです。
枯れて力なく倒れる草木をまたぎ、腹ぺこで元気なく座り込む小動物たちの横を通り過ぎるとも、2人はカーネの住処へと向かいました。
「アオ、あともう少しだ」
幼さを残す少年は不安を隠しきれていません。
しかし、大事に森の魂であるアオを守れば森が元に戻るはずだ、と銀色と灰色が織り交ざる長髪をなびかせカーネは思ったのです。
予言によれば魂と命は切っても切れない存在。2人は共に生きなければいけない運命なのです。
「うわぁすごい」
大樹の前に到着するとアオは悲しそうに揺れる枝を見上げました。この木も例外なく全ての葉を失ってしまったようです。
「これからはここに住めばいい」
「この木に?」
手を引かれるままに幹に空いた穴に足を通すとアオは開いた口が塞がりませんでした。
「え、魔法?」
「魔法とは少し違う」
「わー!広い!」
木の中である、ということを忘れさせるような広い部屋が目の前に広がっています。
壁も天井も床ももちろん木でできていて、机も椅子もすべて木製だったのです。
「どうだ、気に入ったか?」
「うん!すてき!」
生まれて初めてアオは居心地の良い場所にたどり着きました。
オルゴールの音色が耳に心地よく流れ、虚無感と寂しさで満たされていた心が段々と温まっていきます。
「わっ、うさぎさん?」
「森の住人たちがお前に会いに来たようだな」
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