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第4話 鬼の子ぐまさん

 ふかふかのソファーに座ったアオの膝に真っ白のうさぎが乗ってきました。足元に目をやると、控えめに近づいてくるリスや小鳥たちが楽しそうに歌っています。  残念なことに、アオには動物たちが何と言っているか分かりませんでした。それでも、その表情やしぐさから皆がそれぞれ楽しんでいる様子が伝わってきたのです。 「何て言ってるんだろう?」 「子ぐまではなく森の魂が来たことを喜んでいるようだ」 「好かれてるってことだよね?」 「そうだな」  アオは被り物を頭につけると子ぐまの真似をしました。ガオー!と両手を掲げて叫ぶと、小動物たちがきゃーっと逃げまわります。本当に怖がっているわけではありません。誰もが笑いながら鬼ごっこを楽しんでいるようです。  鬼ごっこに飽きると、子ぐまのアオが鬼となりかくれんぼをし始めました。そして、気がつくと動物たちが一斉にアオの体に飛び乗り、きゃっきゃわーわーとくすぐり始めたのです。  こうして穏やかな時間がゆったりと過ぎていきました。アオの周りで騒ぎ思い思いに遊んでいた動物たちは疲れたのか、すーすーと寝息を立て始めました。 「アオ、そろそろ魂の印を見せてくれないか?」 「魂の印?ああ、痣のこと、だよね。うん、ちょっと待って。うさぎさん、ごめんね、立ち上がるからここで眠ってね」  気持ちよくアオの腕の中で眠っていたうさぎは、ふんと鼻を鳴らすとクッションの上に横たわりました。部屋中に心地よさそうな寝息が響き渡ります。 「背中のジッパーを、んっ」  着ぐるみは背中部分についたジッパーで閉められていました。必死で後ろに手を回し掴もうと頑張るアオを見かねてカーネが立ち上がります。 「手を貸そうか」 「ありがとう。これを下に引いて?」  じーっと音を立てジッパーが開きました。着ぐるみを脱いだアオの腰には真っ赤なバラの蕾が咲いていたのです。 「これは……」 「ん?」 「魂の印だ。何よりも紅く美しい」 「んっ、くすぐったい」  カーネの指先がバラの蕾をなぞると腹の底から不思議な温かさが湧きアオは困惑しました。 「バラの蕾か……予言によればその花言葉は純粋な愛らしさ……」 「え、何これ……?」  アオは膝に力が入らないことに気づきました。  触れられれば触れられるほど、体から力が抜けていきます。ガタガタと震え出した膝に、気だるい頭を抱えたアオは床に座り込みました。 「これは……」  カーネを見上げたアオは目を丸くしました。  灰色が混ざっていた髪は銀色に輝き、青白かった肌は血が通ったように色を取り戻していたのです。

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