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第6話 決断の子ぐまさん

 ふと顔を上げたアオは小鳥のさえずりを耳にしました。 「鳥さんが……」 「ああ、私がお前に触れているから、森に魂と命が戻っているのだろう」 「ん?」 「これは、小鳥たちの感謝の歌だ」 「喜んでいるの?」 「そうだ」  うーん、とアオは頭を捻ります。  この森は見るからに廃れていました。森の魂である自分が何年もいなかった森は、色を失い恐ろしいほど枯れていったのです。そんな中で動物たちは必死に生きてきたのでしょう。  このまま、アオが村に戻れば森は元に戻ってしまいます。  可愛い動物たちを置き去りにして見放すようなことがアオにはできるでしょうか。 「ぼくが、カーネさんと交わればいいの?」 「それが魂と命を繋ぐ方法だ。一度だけでないぞ。これからもずっと森を守るために魂と命は共にいなくてはいけない」 「一生ここにいなくちゃいけないってこと?」 「ここがお前の居場所だ、アオ。お前は、ここにいなくてはいけない存在なんだ。なぜ森から離れて人間と生活していたかは知らないが、めでたく戻って来れたんだ、帰る必要などない」 「でも、ぼくのおうちは……」 「ここに私と住めば良いじゃないか。友達が必要なら森の住人たちがいる。この子たちは時に騒がしいが、優しい者たちだ。ここにいれば決して一人になることはないぞ」  生まれた時にはアオの傍に誰かがいたはずです。だけど、気づいたらいつも1人で生きていました。  村の隅、陽当たりが悪く水はけも悪いその立地に立つ小さな小さな家を頭に浮かべると、アオは頭を振りました。 「例えば、ぼくが帰るって言ったら……」 「じきにこの森は朽ちる」 「そうしたらみんなは……」 「食べるものがなくなれば、この子たちも死んでしまう。今でもぎりぎりの生活を強いられているんだ」 「そんな……」  何とも言えない悲しさが押し寄せました。二人の周りで眠っていた動物たちは心配そうに鳴き声を上げます。 「人間の村へ戻りたいなら何度でも戻っていい。ただここに住み、私たちと生きてくれないか。ここがお前のいるべき場所なんだ」 「ん……」  今までで一番控えめなキスがアオに送られました。突然のことで不安にさせたくないカーネは、まだ幼いアオに大変なことを頼んでいることを理解していたのです。 「与えられるものは与え、力の限り守ると誓う。孤独は感じさせない。お前を一番大事なものとする……だから、頼む……私のために、この子たちのために、森に留まってくれないか?」 「……」  アオは下を向いてしまいました。  この部屋にいる誰もが音を発さず、外から様子をうかがっていた鳥たちでさえ囁くのをやめてしまったようです。  緊張感が森中に伝わり、誰もが息をのんでアオの答えを待っていました。 「みんながぼくの家族になってくれるなら、ここに住むよ」 「本当か!?」  カーネは自分より華奢な体をしっかりと抱きしめました。 「んっ、いたいよ」 「悪い、余りにも嬉しすぎて力が入ってしまった」 「ふふ」  銀色の瞳が幸せそうに細まり愛しそうにアオを見つめます。 「お前たち、外で遊んでおいで。これから私たちはひと仕事しなくてはいけないから」 「えっ」 「お前の体に命を注がないと」 「いま、すぐ?」 「私の番になると決めたら待っている時間も惜しいだろう」 「つがいってなぁに?」 「共に生きると決めた運命の共存体、という意味だ。2人で1つ、離れてはいけない関係なんだ」 「んー!またむずかしいこと言ってる」 「そのうち分かるさ。言葉などただの飾りだ」

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