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6/23(日) 2 from宗平

その日の試合はうちの大勝で終わった。 「長岡後半大活躍だったじゃねーか!お前まじで俺ら食いにきやがったな!」 俺ら1年が後片付けをしている間に着替えを済ませた先輩達が部室から出てくると裕大に言葉をかける。 「いやいや。まだまだ先輩達から盗みたいことは山ほどあるんで、後ろで控えさせてもらいますよ。ただ今日は調子出てたって言うか。」 フィジカルも恵まれ実力も十二分にあるのに謙虚な姿勢を忘れない裕大は、先輩を差し置きレギュラー確定と言われているのに部内で学年問わず人気が高い。 「はぁ…」 今日の試合に出れた1年は俺と裕大だけ。 欲張りなのは分かっているが…それでも裕大のような目を見張るような活躍をできなかった自分が次も使ってもらえるのか不安で溜め息が出る。 「じゃあ俺、鍵戻してくるから。」 着替えを終え、鍵を片手に他の1年に手を振り別れる。 裕大は凄い。 いつも凄いが、特に今日の後半は凄かった。 そう、ちょうど俺がコートに入って――… 「お、来たな。お疲れ!」 突然聞こえてきた声に驚き目を向けると春人がスポーツドリンクを持ってこちらに駆け寄ってきた。 「すげーじゃん!ほんとに試合出てたな!」 ほいっ!と差し出されたそれを素直に受け取り礼の言葉を述べるが、きちんと笑えている自信が無い。 「…どした?」 春人が心配そうにこちらを覗き込む。 それにより普段よりも余裕のある私服シャツから覗く真新しい痕を付けた首元が目に入る。 「えっ…」 「え?」 思わず声に出してしまっていたらしい。 例の束縛系彼女だろう…が、友人の初試合にそんな新しい痕を付けて来なくても…、となんとなくモヤッとした気持ちになってしまう。 「…ごめんな。せっかく…忙しいとこ来てもらったみたいなのに、全然活躍できなくて。」 なんとなく棘があるような響きを持ってしまったのには自分でも気付いた。 しかし春人はそれに気付いたようではあるが気にした様子もなく笑う。 「何言ってんだよ。活躍してたじゃん!宗平がしっかり相手に攻められないようにしてたから、こっちの失点は少なかったんだろ?」 取ってるけどそれ以上に取られてたんじゃ勝てねーってのは俺でも分かる、と続ける春人の言葉に俺は嬉しいやら情けないやら。 「あ!サッカーボール!」 サッカー部のしまい忘れかな?と言いながらグラウンドに駆け出した春人は、微妙な俺の空気を察したのか、それとも単にただの好奇心か、俺をサッカーに誘う。 「げー!宗平バスケも上手いのにサッカーもとか詐欺かよ!どっちか寄越せ!」 「ぶはっ。それ何て詐欺。春人はほんと勉強以外はイマイチだよなー。」 「仕方ねえだろ。父さんの仕事継ぐんだと思ってたから勉強しかしてこなかったんだよ。一応中学ん時はちょっとだけ剣道部入ってたんだけど球技はからっきしのまんまなんだよな。」 ちぇーっと唇を尖らせる春人。 結構重い話を掘り当ててしまったような気がするが、ちっともそう感じさせないのは春人の人柄故だ。 春人は俺がグループに引き入れたから友達が出来たのだと思っているが、実際は春人の柔和で親しみやすい雰囲気が好まれたことが大きな理由である。 「春人ー!…次も絶対試合出てやるからさ、また見に来てよ。次はシュートも決める。」 「うゎーお前それ女に言ってやれよ。モテんのにー。まぁそんなモテる宗平くんからの貴重なお誘いだから行ってやるけどね。感謝しろよ!」 あははっと2人で声を上げて笑う。 いつの間にか不安な気持ちは次の試合への意気込みへと変わっていた。 「なぁ…はる――…」 「宮田」 俺の声は横から聞こえてきた声に遮られる。 いつからそこに居たんだろう。 グラウンド脇にいた裕大が春人へと近付いていく。 この2人知り合いだったんだ。共通点なんて… 「あ」 以前春人が学校から徒歩10分程度の場所に下宿していると聞いたことがある。そして裕大の実家は下宿を営んでいるという。 それでか…だが… 裕大が現れてからの春人の焦ったような居心地の悪そうな表情は何なのだろう。 話してるのを見るのはこれが初めてだし、もしかして2人は仲が悪いのか…? 「悪い宗平。俺帰んねーと…」 「あぁ、そうだな試合見に来ただけだったのに、遅くまでありがとな。」 「いや…じゃあまた明日な…」 ぎこちなく微笑むと春人は裕大と共にその場を後にする。 2人の後ろ姿を見つめていると裕大が口元に笑みを浮かべ春人の首に触れたのが見えた。 そこは…あの新しい痕があった場所… 俺の視線に気付いたのか、春人に顔を向けたままの裕大と目が合う。 夕日に照らされた裕大は何事かを呟くように少し唇を動かした後ゆっくりと、描くその弧を深くした。 あれ? 今日裕大が活躍しだしたのって――…?

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