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6/23(日) 3

突然現れた長岡はやはり俺が順調に日々を過ごしていることが気に入らないのか、なんだか不機嫌顔だ。 「"お友達"とは楽しくやってるみてえじゃん。」 その目が遠くで俺らの様子を伺う宗平に向く。 「…邪魔だよなぁ……。」 ポツリ…と呟かれたその台詞にブワッと冷や汗が溢れ出す。 長岡の復讐の状態を述べるとするならば、それは決して上手くいっているとは言えないだろう。 その原因はきっと、俺の嘘と…宗平の存在だ。 条件の悪すぎる俺のような存在も普通に受け入れてくれる宗平がいたから、俺は至って平和な学校生活を送れているし、もしここで俺達の関係や俺の過去をバラされたら宗平は離れていってしまうかもしれない。 「悪い宗平。俺帰んねーと…」 「あぁ、そうだな試合見に来ただけだったのに…。遅くまでありがとな。」 「いや…じゃあまた明日な…」 最悪の結末を予想し、とにかく早く宗平から長岡を離したくて宗平に別れの言葉を述べグラウンドから足早に立ち去ろうとする。 しかし楽しかった時間への未練か、その足元はたどたどしい。 「やっぱ見えねんだな。」 長岡がぽつりと呟いた。 一瞬何を言っているのか分からなかったがすぐに首の痕のことだと思い至る。 今度も大胆に付けられたそれは長岡の言葉通り以前の物より見えにくい場所にあるため、制服のシャツであれば第一ボタンを外したくらいでは見えないようだ。 これに関しては何故か「全然見えねーな。」と、長岡のお墨付きも頂いていた。 長岡ほど身長があれば見えてしまうかもしれないがそんな長身は今、俺の周りには長岡1人しかいないのでとりあえず問題ない。 「昨日お前が何してたか笠井に話してみようか?」 ニヤッと笑みを深くした長岡が首の痕に触れる。 「…そんなん、お前だってホモってバレて学校来れなくなんじゃねーの。」 反撃のつもりで出した言葉は大した効果を持っていなかったようで、長岡は「そうだな。」と俺の首に触れたままゆるりと笑いながら返す。 当然相手が自分だと明かすようなヘマはしないということなのだろう。 長岡はきっと、俺に都合の良い抜け目なんて用意してくれてはいない。 「…やっぱムカつくわ。」 隣で吐き捨てられた言葉に無意識に肩が揺れる。 恐る恐る視線を上げるといつもの笑っていない長岡の目と、目が合った。 口元は普段以上に深く弧を描いているというのに、 何故かそれは、 普段以上に冷たく映った。

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