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6/24(月) 2 from宗平

試合の疲れをきちんと取るという名目で朝練が無かったため、今日の練習は放課後のみだ。 部室に行くとそこには既に着替えを始める裕大がいた。 「お疲れ。裕大いつも早いな。」 軽く挨拶し俺も着替えを取り出す。 ライバル疑惑や春人に言った言葉を実現したい気持ちで今日の俺はとても気合いが入っており、早く練習をしたくて1日中うずうずしていた。 それはもう、普段は皆と軽く話してから部室に向かうのに今日はそんなものすっ飛ばして駆け付けたくなってしまうくらいには。 「なんか嬉しそうじゃね?」 俺のニヤついた顔に気が付いたらしい裕大に真意を尋ねられたので軽く笑って、小テストの結果が良かったのだと適当な理由を見つけて答えた。 「裕大って俺のことライバルと思ってくれてんの?」なんて聞けないし、こういうのは心の中に留めておくだけの方がモチベーションを維持できる。 実際、直前に春人に教えてもらっていたこともあり小テストの結果は良かったのだから嘘を吐いた訳ではない。 しかし…やはり意識してしまってるせいだろうか。 普段以上に裕大に視線を送ってしまっていた俺は裕大の背中に残された真新しい引っ掻き傷に気付く。 一瞬ただのかすり傷かと思ったそれらはよく見れば薄ら爪の形をしていて女性との情事でできた傷だと察することが出来た。 裕大は今日のように普段から人が少ない時間を好んで着替えをしていたから気付かなかったのだが、もしかしたらこういうのが付いているのが理由だったのかもしれない。 見られる人数が少ないに越したことはないのは俺にだって分かる。 試合後は裕大に目を向ける余裕すら無かったが、この傷はいつからあったのだろう? 「あぁ、これ?」 俺の視線に気付いたらしい裕大が肩越しに背中に手を伸ばす。 周辺には真新しい傷の他に少し前に付けられたのではないだろうか、という物もいくつか見受けられた。 そして、何故かそれらは春人の首の痕とダブって見えた。 「こういうの付けられちゃうとさ、見つかんないようにすんのが大変だよな。」 少し楽しそうだが、自嘲的にも見える笑みで裕大が言う。 「でも笠井のクラスの宮田よりはマシだわ。」 裕大の口から突然出てきた春人の名前に顔を上げる。 裕大は恐らく春人と同じ家に住んでいる。彼女のことも何か知っているのだろうか? 「そうだな…あれは心配になるよ…。昨日も新しい感じの痕付いてたし…。」 春人の首のそれを思い出し、顔を歪める。 最初の痕がだいぶ治ってきていたところだったというのに…春人が災難で仕方ない。 転校初日からそんなものを付けていたものだから、当初は光汰にさえ好奇の目で見られていた姿が思い出される。 一体いつになれば彼女は春人を解放してくれるのだろう。 何か俺に、俺らに出来ることはないだろうか。 「…春人…先週の段階では彼女と別れられるかもって言ってたんだけど、なんかあった――…」 相談するような口調で続けると隣で聞いていた裕大が「堪えきれない」とでも言うかのように、ぶはっと吹き出した。 何が面白いのか分からないでいる俺に対し、裕大は一頻り笑うとロッカーの扉を閉める。 下に向けていた顔を少し上げこちらに視線だけを向け、告げた。 「宮田の相手、彼女でもなんでもねーよ?」

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