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6/27(木) 4
「お気に入りの時計、割っちゃったんだって?」
宗平から聞いたのだろう。
下宿先のキッチンで水を飲んでいると、相変わらずのニヤついた笑みで長岡が聞いてきた。
「それでも付けてんだ。」
俺の手首を取ると長岡がヒビの入った文字盤のガラスを指先で叩く。
だいぶキツく締めてはいるが、それでも掴まれたことによりズレて見えてしまった皮膚は薄ら赤い。
こうもきつく締めてしまえば締めたことにより赤いのか、長岡に縛られてできた傷が赤いのか、パッと見では判断できなくなっているが、どこで誰が変な勘繰りをするか分かった物ではない。念には念を入れておきたいものだ。
だがやはり時計を割ってしまったことのショックは大きいので、手首の傷が完治したら即座に外してやろうと決めていた。
「っはなせ…」
腕を振り払うように外すとその手は意外にもあっさり外れた。
夜間は間仕切りで仕切られているが、すぐ隣では今も長岡の両親や他の下宿生がテレビを見ているから当然と言えば当然か。
「…お前…宗平に何か言った?」
「何かって?」
1つ息を吐き意を決したように瞳を上げ尋ねた俺を見て長岡は楽しげなその顔を崩さずに質問に質問で返す。
「っ…最近、宗平が元気ないんだよ…。ずっと考え事してるような感じで…でもよく目が合うから、もしかして俺のこと何かお前から聞いたんじゃねえかって…」
そこまで言うと不意に長岡に顎を掬われて唇を奪われる。
「んっ!?ぅう!」
隣に人が居んのに何考えてんだ!!
俺を台に押し倒し口内を貪る長岡を、懸命に胸や肩を押して離そうとするが全く効果は得られない。
何度か角度を変え舌を絡ませられる。
そうして端から唾液が伝い落ちた頃、漸く俺の口は開放されたがもう息は絶え絶えだ。
「"何か"って…お前が原因で俺が小学生時代ハブられてたこと?お前が俺に抱かれてること?」
「ぅ…やぇ…ろ…」
頬に手を当て親指で口内を弄ばれる。
「それとも……お前が男に抱かれてこんな顔しちゃうような奴だってこと?」
長岡のその言葉にカッと顔に熱が集まり考えるより先に手が出ていた。
思いっきり、殴ってやろうとしていた。
だがその拳はあっさり長岡の掌に包まれ勢いを無くす。
「ははっ。こっえーの。でも事実だろ?まだ2回しかヤッてねーのに何回イッたか数えらんねーよな、淫乱ちゃん。」
「ざっけんな…!」
噛み付きそうな勢いで睨む俺を見て長岡はフッと笑うと包んだ俺の拳を上に引き上げ手首に付いたヒビの入った時計にチュッと口付け笑む。
その勝ち誇ったような、支配されているような笑みが嫌で手を振り払いキッチンを出る。
腕時計は次の日から別の安物に変えてやった。
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