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7/10(水)

「昨日はお楽しみだったのね〜ぇ。」 学校から帰りシーツをコインランドリーに出しに行こうと部屋を出たところで声をかけられる。声のした方には俺の隣室の扉に背を預けて立つ1人の人物。 見たことのない男だった。 「はじめまして〜。私は君の隣に住んでる原沢くんのお友達の舞山。気軽にマイマイって呼んでね〜。」 語尾に♡が2個くらい付いているような喋り方で自己紹介を始めた明らかにオカマ風な舞山はそう言い終えると途端に黙りこくる。 顔全体に「?」を浮かべ待っていると突然舞山が激昂した。 「こっちが名乗ったんだからそっちも名乗んのが筋だろーが!ボサっとしてんな!高校生!」 どーせ俺のことも脳内で呼び捨てにしてんだろ!はっ倒すぞ!!と続けたその勢いに押され思わず自己紹介をしてしまう。 「ふぅ〜ん。春人ちゃんね。彼氏とは長いの?」 俺が自己紹介を終えるとまた突然態度を戻し、星でも飛んでそうな目でこちらを見ながらそんなことを言ってくるマイマイ。 彼氏…?何の話だ? 念の為、俺が男だと認識しているのかと確認するが、「やぁだ、当たり前〜!」とテレビで見るオカマタレントのような話し方で返してくる。 「昨夜はお盛んだったじゃな〜い?だめよ〜。コンクリ建てだからって防音性能を過信してちゃ!上下はまだしも横は結構聞こえるんだからね!」 そこまで言われて漸く気付く。 昨日の声が隣まで漏れていたのか! 顔に火がついたような熱を感じ、これ以上この話を廊下でする訳にはいかないとマイマイを部屋に引き入れ扉を閉める。 そこでふと気付いた。 なぜ、俺が女を連れ込んでいるのでなく抱かれている側だと分かったのか。 疑問に思ったことをそのまま尋ねるとマイマイはカバンから聴診器を取り出して笑った。 マイマイは原沢くんと同じ医療系大学に通う3年生で課題などをやるために月1程度の頻度でここで寝泊まりしているらしい。 下宿費を払っていないので当然食事なども出るはずがなく顔を合わせることは無かったので知らなかったが、昨日もこちらに泊まっていたようだ。 そして昨夜、隣から薄らと漏れ聞こえた声を野生の勘だか、女の勘だか、オカマの勘だかで情事の声だと直感したマイマイはすぐさま実習用の聴診器を取り出し壁に当て音を拾ったのだという。 サラッと話されてしまったが、マイマイのしたことはだいぶ変態染みている。 コンクリートの防音性能に対する過信というか…モラルを過信したことで失敗した気分だ。 だが、俺の引きつった顔を見たマイマイは何を思ったか「原沢くんならその時仮眠とってたから安心して!」と満面の笑みで言った。 そして音を拾ったマイマイは両者が男であり、抱かれているのは隣の部屋の住人だと確信したという。 なぜならマイマイは相手を責め立てるその声には覚えがあったからだ。 「相手、裕大くんでしょ?ここの息子さんの。実は私、彼のこと狙ってたのよ〜。」 そう言ってマイマイはにっこりと微笑んだ。

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