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7/23(火)

キャンプから帰った俺が真っ直ぐに向かったのは3階にある自分の部屋。ではなく、その隣。 勢いよく扉を開けると正面に置かれた机で勉強していたらしい長岡がイヤホンを外しながら「なに。」と振り向いた。 「おっまえ…ふざけんなよ!宗平に何言ってんだよ!!」 怒りに任せて怒鳴ると長岡は思い当たる節があったのか「あぁ。」と笑みを浮かべる。 「案外遅かったな。笠井ってビビりかよ。」 飄々とする長岡に更に怒りが込み上げる。 「当然だろ!俺が…」 と、そこまで言いかけて長岡の両親や他の下宿生が暮らす階下まで声が響くのを気にして長岡の部屋に入り扉を閉める。 一応長岡の部屋に入るなんて行為が危ないことは分かっているから扉には手をかけたままだ。 成長した俺の危機管理能力。 きちんと扉が閉まったことを確認してから改めて長岡に向き合い仕切り直す。 「ビビって当然だろ!普通友達にSMクラブ通ってんのかどうかなんて聞けねーよ!」 言い切り長岡を睨むが、長岡は完全に意表を突かれたようで目を丸くして口を開ける。 初めて見るその表情に俺も驚くと、長岡が突然大笑いを始めた。 なんだ?なんでそうなる?? 1度「笠井、バッカだなー!」と言うとまた笑い出す。目に涙を浮かべるほど笑うと長岡は自分を落ち着けるかのように大きく息を吐くが、まだ収まらないのか腹を抱えている。 「それで?」 今度こそ呼吸を落ち着けると長岡が尋ねてくる。 「春人はSM好きってことで話はまとまったのか?」 だが言い終わるとぶはっとまた笑い出す。 「なわけねーだろ!」 「…へぇ。じゃあちゃんと話したのか?」 長岡からのその問いには押し黙る。 宗平に聞かれた時は焦りすぎて良い答えが浮かばず、ひたすら「違う」と言い続けた。それしか言えない俺と宗平の空気は結局、先程別れるまで微妙なままで、帰り道はもう何を話したかだって覚えてない。 「してねーのか。」 答えてもないのに、察しの良い長岡はつまらなそうに背もたれに寄りかかる。 「まー残念だけど俺は笠井にお前の相手が彼女じゃねーってことしか伝えてねーよ。SMだのなんだの考えついたのは笠井本人だ。」 なんでだろうな…と考えた素振りを見せた後、「お前が鞭打たれて善がるドMに見えたのかもな。」と楽しそうに言った。 そんな長岡を見て俺の表情はひたすらに曇る。 「お前…何がしたいんだよ…。」 ずっと思ってたことが遂に口をついた。 宗平たちを俺から引き離していじめを誘発したいのか。ただ単に俺を苦しめたいのか。怯えた俺を見るのが楽しいのか。 色々浮かぶ答えを思って奥歯を噛み締める。 そんな俺を見た長岡は背もたれに寄りかかったまま脚を組んで、何でもないことのように答えた。 「お前を、1mmも余さず俺のモンだって思いたい。」

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