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◀7/23(火) from宗平
予想は、
見事に、
外れていた。
キャンプ場から帰る電車に揺られながら横目で春人を見る。
彼女ではない誰か。裕大の笑い。見せたがらない体。拘束具のように付けられた装飾品。
その全てに俺の予想…春人がかなりの被虐趣味で体は鞭の痕だらけだから見せたがらない、女の正体は彼女でなくてS嬢…というのは合っていると思っていたんだが…。
どうやら違ったらしいそれに春人はかなりのショックを受けてしまったようで終始俯いたままだ。
どこでそんなこと聞いたんだと怒りを顕に問い詰めてきた春人に「裕大が…」としか答えられなかった。
すまん、裕大。
きっと春人の中では裕大が俺に「春人はSMクラブに通ってる」と言ったのだと認識されているだろう。
帰ったら怒られそうだが俺にはもうこの話題を振る勇気はない。耐えてくれ。
しかし、これ以上触れてくれるなと言外に語るその雰囲気に、春人から真実を聞くのはもう無理だろうと思い、溜め息をつく。
秘密は…やっぱり隠したいものなのだ。
まだ1ヶ月半しか共に過ごしてはいないが、毎日顔を合わせていたものだからだいぶ親しくなったのではないかと思っていた春人の"どうしても踏み込まれたくない領域"というのを目の当たりにして少し落ち込む。
全てをさらけ出した関係なんて築ける方が稀なのかもしれないが、少なくとも高校1年生の俺らが「絶対に知られたくない秘密」を持っているのは平々凡々な生活しか送ってこなかった俺の目には少し異質に見えた。
もしかしたらもう少し親しい…例えば中学からの友人なんかには話をしているのではないかと考えてなんとなくモヤッとする。
そう言えば春人は中学時代の話をあまりしたがらない。
前に剣道部に短期間だけ所属していたことを聞いたことはあるが…友人の話などは聞いたことがない。
改めて考えると俺は春人のことについて知らないことが多いなぁ。
そんなことを考えているとポケットに入れていたスマホが震えた。
確認するとラインが1件。
昼まで一緒にキャンプ場にいた里沙ちゃんの友人の1人、優奈 ちゃんからだった。
内容は来週土曜日の花火大会に行かないかというもの。
少し考えた後に未だ俯く横顔に目を向ける。
「…春人。8月3日空いてるか?花火行こうぜ。」
「え?あぁ。うん。」
心ここに在らず、と言った感じで春人が答える。
その表情は裕大への怒りなのか、俺の予想に対するショックなのか、苦しそうに見える。
その姿に…原因は俺なんだが、どうにかしてやらなければ、という思いが芽生えた。
親しくなれば…もしかしたらいつか秘密を明かしてくれる日が来るかもしれないし、と打算的な想いと共にスマホを操作する。
諦めよう諦めようと必死な俺はいつの間にか自分でも抑えられないほどに真実を知りたがっていたようだが、そんなことには気付かないまま俺は優奈ちゃんへと返信を送った。
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