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9/2(月) 2

休憩を挟んだ後、瑛二が教える側に回ってくれたこともあり課題はだいぶ進み、明日には全てを終えられるだろうと見通しがついた。 「じゃー俺ら帰るねー。今日はまじでありがとー。」 そう言ってフラフラと歩き出す光汰。 それを確認した瑛二が「お邪魔しました。」と頭を下げてから光汰を見張るように後ろからついて行く。 日が大分傾き街頭が灯る町並みに消えていく2人に宗平と並んで手を振った。 「じゃあ俺も帰るわ。お邪魔しました。」 そう言って軽く頭を下げて帰ろうとした宗平に、後方から久しぶりに聞くアイツの声がかかった。 「笠井?何してんだ?」 振り向き存在を確認した途端、げぇっと顔を歪めた俺に目敏く気付いたらしい長岡は口角を少し上げる。 「宮田の部屋行ってたのか?」 「あぁ。勉強会しててな。」 「勉強会?」 宗平の返答を聞いた長岡は一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに察しがついたらしく「お疲れ。」と宗平と…俺にも声を掛けてくる。 どうしよう。初めて見る毒気のない笑顔で言われるもんだから…すごく気持ち悪い。 反射的に1歩後退り、鳥肌の立った腕をさする俺に気付いた様子もなく、宗平は長岡に明日から再開される部活の朝練予定を確認している。 宗平。たぶん3人でいると主に俺に良くない状況になりそうだから一刻も早く帰ってくれないか。お願いだから。気付け!宗平!と、ひたすら念を送ってみたのだが、そんな俺に先に気付いたのは長岡だった。 「どうした?宮田。寒いのか?」 薄ら口元が笑っている。 気付いてほしくない方に先に気付かれた…。 パッと腕から手を離して視線を泳がせる。 「いや、そんな訳でもねーけど…。」 「そういや、半袖の制服着てんの初めて見るよな。痕はもうだいぶ消えたのか?」 とか、心配でもするかのように更に声をかけてくる。 どの口が言ってんだ。 「…そうだな。最近彼女とは全く会ってねーんだ!もしかしたらもう二度と会わないかもしんねーし!」 強気で言い返すと長岡が口元に笑みを浮かべながら歩み寄り、俺の肩に手を置いて耳打ちしてくる。 「おいおい。笠井にお前の相手が彼女じゃねーって話してあるっつったろーが。」 「…!」 そう言えばそんなことを言っていた…。 完っっ全に忘れてた! 「なぁ、笠井。宮田の"相手"の目星はついたか?」 俺の肩に腕を回しいつもよりはマシだが少し嘲るような笑顔で長岡が宗平に尋ねる。 近すぎる距離に焦り、肩に回った指を離そうと軽く肩を揺すると指の痕がつきそうなくらいグッと強く握りこまれた。 宗平は少し黙った後に、「まだ。」と一言返す。 「教えてやれば?春人。」 俺の肩を抱いたまま、長岡がいやらしく俺に耳打ちする。 くそが。 すぐ横にある長岡の顔を思いっきり睨みつけ無言を貫く。それでも何かが無性に楽しいらしい長岡は満足したように背筋をのばし、「残念、笠井。まだ言えねーって。」と宗平に言い残し俺を家の中へと引っ張っていく。 「ちょっ…宗へ…」 閉まる扉の隙間から見えた宗平の顔は、頭上に灯る街頭のせいか…黒くて、よく見えなかった。

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