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9/2(月) 3

玄関に入ったところで肩にかかったままの長岡の手を掴んで払い飛ばす。 「…いって。お前、爪伸びてんだろ。」 当たった爪により引っかき傷のできた手を見て長岡が言った。 「え、悪…」と思わず自分の爪を確認して謝りそうになるが、俺の単純な反応を見て笑う長岡の声が聞こえてきてハッとする。 完全に手の平で踊らされている…。 もう顔も見たくなくて爪を見ていた視線をそのまま床へと落とし、宗平とこのままではマズい気がしたので再び外に出ようとする。 しかし取手に伸ばされた俺の手を長岡の手が握り込みそれを阻む。 「1ヶ月構ってやらなかったくらいですぐ他の奴に熱い視線送ってんだもんなー。」 愉快気な声音でそう言うと扉に向き合う俺を後ろから抱くようにもう片方の腕を回す。 「誰が構ってほしいなんて言ったよ。」 俯き、唾でも吐き捨ててやりたい気分で言い返すと後ろに立つ長岡が笑ったことが空気でわかった。 「そうだな。お前は言ってねえ。でも俺は言ったろ?お前を全部俺のモンにしてえんだって。」 そう言われると耳を甘噛みされ、滑った感触がそこを這った。 「っ!」 まさかここで何事かを始める気ではないだろうかと危惧し、思いっきり両腕を振り、離れようとするが俺の手を握り込んでいる腕だけがどうしても離れない。 「非力。」と一言バカにしたように笑われ握られた手を軸に引き寄せられると今度はその腕を腰に回され正面から抱かれる。 「んぅ…っ」 そのままの勢いで重ねられてしまった唇。 早く引き離したいがもう片方の手に頭を固定されてしまっているため顔を動かすこともできない。 なんとか長岡の腕を外そうと手を伸ばすが爪がまた刺さって傷付けてしまうのではと思い上手く動かせなかった。 しかし長岡の両親や下宿生がいつここに顔を出すか気が気じゃなく、扉1枚で隔てられたリビングや下宿生のいる階上へと続く階段に絶えず視線をやる。 すると…。 「ぃ"っ…」 漸く唇が離れたと思ったら最後に下唇を力を込めて噛まれた。 薄ら血の味が伝わってきたことで切れたのだと分かり、眉間に皺を寄せながら少し上にある長岡の顔を睨め付けると長岡はすごく満足そうなその顔を俺の正面に持ってくる。 「そう。俺だけ見てろ。」 どこのゲームのキャラクターだ!寒いんだよ! 緩んだ拘束から逃れ、靴を脱ぎ捨てると自身の部屋目指して一直線で駆け上がる。 部屋に入り扉を閉め鍵をかけるとそのまま扉を背に床にしゃがみこんだ。 息があがっているのだとしたら、顔が赤いのだとしたら、きっと階段を駆け上がったことによる酸欠だ。

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