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9/7(土) 2 from宗平

「それがさ…俺、その子と…2人で話したんだよねー。」 思わず飲んでいたドリンクが変なところに入りそうになる。 いつ、どういう経緯でそんな事になっていたんだ…。 「先週の土曜のバイト終わりにね、いつも通り里沙ちゃんを家まで送ってたんだけど…その時もちょっと良い雰囲気でね…こう…手をだねぇ…」 思い出したのか赤面する光汰。 そんな話してんじゃねえんだけど…まぁ、幸せそうだし浸らせてやろう。 そして案外すぐにこちらに意識が戻ってきたらしい光汰は、姿勢を正すと続けた。 「里沙ちゃんが家に入んの見送って、俺も家に帰ろうとした時に話しかけられてー。」 彼女は夏の熱帯夜に上下黒のジャージを着て立っていたと言う。 「俺も最初見た時は、『あ、死んだー。』って思ったよー。もう絶対殺しに来てるじゃんね?返り血対策の黒だよねぇ?」 光汰のそれには同意しかねたが続きを促すと、いきなり大泣きを始めた彼女を里沙ちゃんに気付かれないよう急いで近くの公園に連れて行って話を聞いたのだと言った。 「なんかさ。同性が好きだし、ストーカーしちゃうし。相当頭のイカれた奴だと思ってたんだよねー。」 本心からそう思っていたことは女性と話すことに極端に慣れていない光汰が初対面の彼女を公園に誘導し話を聞くに至れたことからも想像できる。 「けど…なんか、同じだったなって。」 「?」 「俺と、同じで。好きな人がいて。その人にどうしても近付きたくて。時々訳わかんなくなって、暴走しちゃう。」 そう言って光汰は笑うと「まぁ暴走の仕方が俺とはだいぶ違うかなー。里沙ちゃん切り付けたのは絶対許せないもん。」と付け足す。 「でも…好きだから離れたくないのにそうやって足掻くほど離れてったって…泣いてたあの子が、俺とどう違うんだろ…ってなんか思った。」 ストローでドリンクを1度掻き混ぜそれを眺める光汰を、俺もただ見つめる。 その後、彼女には悪いが光汰も里沙ちゃんが好きなので引かずに精一杯思いの丈を伝えたのだという。 そして最後は「あなたみたいな軟弱そうな男が里沙の新しい恋人なんて、私は認めません!」と啖呵を切られて逃げられたらしい。 やはり彼女は暴走癖があるようだ…。 「それ、大丈夫なのか?」 「んー。実はあの日から今度は俺が駅で待ち伏せされてんだよねー。」 心配になって聞くと光汰はへらりとなんでもないことのように答えた。 全然なんでもなくない。 「初日は瑛二が『警察に突き出す。』とか言って逃げる彼女を追っかけちゃって。すんごい必死で止めたよー。」 あははと笑って、実は彼女とはそれから「里沙ちゃんのどこが好きで自分はどういうことをしてやれるか」という論争を駅で繰り広げているのだと言った。 そして今日の告白も昨日彼女に「きちんと告白もできない根性無しが調子に乗らないで!」と言われたことがきっかけとなったらしい。 そこまで言うと光汰は今日の本題を思い出したのかまた背筋を正してソワソワとしだした。 「…告白、上手くいくと良いな。」 そう言葉をかけると、光汰はくしゃりと笑った。

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