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9/28(土) 4

とりあえず長岡と一緒にいたくなどないのでここを離れてからメールを送ろうと思い歩き出した俺の首に長岡が腕を回して歩みを止めさせる。 「相変わらず笠井とは仲良いのな。」 「…お前が期待するような結果にはなりそうも無ぇから、もう宗平にも絡むのやめてくんねぇ?」 夏休み明けの宗平を挑発するような態度を思い出して、肩に乗せられた長岡の顔をなるべく見ないようにして言う。 「さぁー。それは笠井次第なんじゃねーの?」 「はぁ?」 訳の分からない返しに反応するように顔を向けるとタイミングを合わせるように長岡が顔を動かして唇を重ねてきた。 「んんぅ!?」 学校で…何を…! 両手に持った飲み物を零さないようにしながら全力で体を動かし逃れようとするのだが首に回された腕と俺の顔を支える手がそれを許さない。 そうこうしてる内に長岡はどんどん口づけを深いものにしていき、ほんのり甘い味が舌伝いに伝わってくる。 「っはぁ…」 暫く口内を舐ってから離れていった口に思わず息が漏れた。 「春人が俺のモンだっていっそ笠井に見せてやろうか。」 「っ…お前のモンなんかじゃねーよ。」 「やめろ」と言ったところできっと言うことは聞いてくれないと思ったので、せめてもの抵抗としてまず根本を正そうとする。それを聞いて長岡は薄く目を細めて笑い、また顔を近付けてくる。 「おい!ばか!ふざけ…」 「っ春人!」 突然叫ぶように名前を呼ばれ、本当に心臓が口から飛び出そうなくらい驚いて全身が跳ね上がった。 声のした方に顔を向けるとそこには宗平が驚いた顔をして立っていた。 「……遅れてごめんな。ちょっと中庭行ってて。…裕大となんか取り込み中だった?」 気まずそうに聞いてきた宗平に慌てて空返事をして、拘束力の緩くなった長岡の腕から抜け出し飲み物を渡しに近寄る。 両手に持った飲み物の片方を宗平に渡して…余ったもう片方を見る。長岡が口を付けたもう片方。 思い出しただけで顔が歪んでしまったが、仕方ないので振り返り長岡の元まで戻ってそれを渡す。 「俺の分もあるのか。ありがとう、宮田。」 そう言って笑った長岡。 他の人が見ればすごく人好きがする笑みなんだろうが、俺には気持ち悪くしか見えない。 「…どういたしまして。」 それでも宗平の前だからキャラを作っているんだろう長岡に、文句を言われた飲み物を笑顔で受け取らせられたことが少し嬉しくて俺も含みのある笑顔で返す。 ふんっと満足したように綻んだ顔のまま振り向いた俺の正面には文句も言わず飲み物を飲む宗平が暗い顔をして立っていた。 そうだった。宗平は先程長岡に負けたばかりなのだ。あまり長岡と一緒にいさせては可哀想だし俺が長岡といたくないのもあったので急いで宗平に駆け寄ると校舎に戻ろうと声をかける。 「2年生が出してるお化け屋敷見に行きたいんだ。行こうぜ。」 腕を引きながらそう言うと、宗平は少し悲しそうに笑った。

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