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9/29(日) 4
連れ出したマイマイにたこ焼きを買いに行く道すがら事情を説明したところ、特効薬は無いと言われた。でも俺は少しでも早く宗平に元気を取り戻してもらいたいのだと伝えると、どうしても声を掛けたいのなら昨日のゲームを見て感じたことを素直に話せば良いのでは、と。
「春人のことだから『あれがダメだった』とかそんなんじゃなくてただ宗平くんのプレーに感動して見てたんじゃないの?それを伝えれば良いじゃん。最後に『かっこよかった』とか言ってあげてさ。」
そんなもんだろうか…。もっとなんかモリモリ元気が回復するような魔法の言葉が欲しいのだが…。
「そんな言葉の1つや2つで完全に立ち直るんなら人間、苦労しないよ。」
そう言ったマイマイに頷く。それは…凄い正論…。そういえば前に試合後落ち込んでいた宗平にはどうやって声をかけたんだっけ…気付いたらいつもの調子に戻っていたのでよく覚えていない。
いまいちスッキリできなくて、俺まで落ち込んだ気分のままたこ焼きを片手に中庭に戻るが、そこには人の居なくなったベンチがポツリとあるだけだった。軽く辺りを見渡すが他の生徒が行き交うだけでその中に宗平の姿はない。そうしているとマイマイのスマホが着信を告げた。
「優奈だ。もしかしたら宗平くんといるかもしれない。」
そう言ってマイマイは電話に出ると暫く話した後「優奈、春人のクラスの出し物にハマったっぽくてそこにずっと居たみたい。宗平くんはいないらしいけど…。」と言ってきた。
それならマイマイは優奈ちゃんの元へ向かった方が良いだろうとなり、マイマイとはそこで別れて1人宗平を探して歩き出した。
先程から携帯でメールを送っているのだが返信は無くて、ラインのような既読機能は無いので宗平が見たかどうかも分からないまま。書道部の展示教室に行って瑛二に声をかけたが、瑛二も、宗平は1時間半ほど前…つまり俺が当番の間に1度ここに来たきりだと言っていた。
途方に暮れたまま一般公開終了時刻を迎え、清掃のために教室に戻った俺はそこで漸く宗平を見つけた。
だが掃除に取り組む他の生徒や教室自体の雰囲気に押されそこでも宗平とは話は出来ず、やがて日も傾きだして文化祭は後夜祭へと移行していった。
光汰と瑛二と宗平の3人は現在開かれているミスター&ミスコンテストを見に校庭へと降りて行ってて、俺はなんとなく盛り上がる気分にもなれなかったので夕日の中照らされた候補者たちの後ろ姿を教室から眺めていた。
後夜祭が始まる前に少し話した宗平の調子はパッと見普通に戻っていて、何気に聡い光汰や、瑛二も「もう心配することはないだろう。」と思ったようだ。だが宗平は…俺とだけ目を合わせてくれなかった…。
もしかして落ち込んでいる原因はゲームに負けたことじゃなくて俺の態度?
何かしてしまっただろうかと頭を悩ませていると後ろ側から物音が聞こえてきて、慌てたように振り返る。…と、そこには校庭に行ったと思っていた宗平が立っていた。
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