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9/29(日) 5

教室に1人で戻ってきた宗平に忘れ物かと尋ねると宗平は首を振って、暫く黙った後、俺に謝ってきた。 「ごめんな…。なんかずっと嫌な態度取っちまって。」 「いやっ…別に…。……。」 その後の会話が続かなくて、流れた沈黙に耐えかねて口を開く。 「昨日のゲームさ!…凄かった。宗平の"勝ってやる"っていう気合いがこっちまで伝わってくる感じで。シュートもガンガン決まってたし…。……かっこよかった。」 もう今となってはわざわざ自分から掘り返すのもどうかと思えたが、それでもやはり俺にはこれぐらいしか言えないと励ましの言葉を送る。最後にマイマイからのアドバイスにあった一言も忘れずに。 すると宗平が苦しそうな顔をして俺を見る…。 なぜか…地雷を踏んだような気がした。 近付いてくる宗平に、俺の脳内では「マイマイ!間違ってたよ!マイマイ!!」というマイマイ非難の大合唱が行われていた。 俺の正面に来て歩みを止めた宗平は手を伸ばして俺の首に触れる。 「俺は、春人のこと何も知らねぇよな…。」 そう零した宗平は床に落としていた視線を上げて、言葉の意味が分からず顔中に「?」を浮かべている俺を見つめた。 「春人から、話してくれたらって思って…我慢してたけど、案外俺って耐え性無いみてぇ。…ほんと、自分でも意外。」 小さく笑った後再び視線を床に戻すと宗平は大きく息を吐く。 「春人。俺に春人の"秘密"、教えてくんねぇ?」 「ひみ…つ…?」 「…春人の……"相手"…。」 少し迷いを含みながら言った宗平の言葉に息が止まり、考えをまとめるより先に口が動く。 「だ…め…。」 宗平は察しているのだと思っていた。察した上で傍に居てくれているのだと。だが、そうでないのならわざわざ自分から宗平が離れていくようなことはしたくない。したくないのに…。 「春人…。」 「だめ。だめだ。言えない。」 「春人っ」 「言えない!本当に…!」 顔を顰める宗平を見て…宗平と離れたくないはずの俺の行動がどんどん宗平を遠ざけているのだと分かって、したいことと裏腹な現実に涙が出そうだ。 「っ…"お願い"…聞いてよ。」 俺の肩を両手で掴んだ宗平が絞り出すように言う。とても苦しそうで、押しつぶされそうな声。 "お願い"というのがボウリングの時の約束を言っているのだというのはすぐに分かった。 前に宗平がシュートを決めるとグラウンドで言っていたのを覚えてくれていたように、俺も宗平との約束はいつでも覚えていたかったから。 でも、俺はそれに応えることができない。 「…無理だ…。」 「春人!」 「言えない!宗平には、絶対に!!」 もうこの場に居たくなくて荷物も置きっぱなしに教室を飛び出すとそのまま優勝者の発表に盛り上がる校庭の横を通り帰路を走り抜ける。 溢れ出てくる涙が、どうして出てくるのかなんてはっきりとは分からないまま、俺は声を上げて泣いた。

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