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◀◀9/29(日) 2 from宗平

春人に「待ってて」と言われたにも関わらず、俺はその場を離れてしまって春人を避けるように部室の中へと閉じこもった。 「意味わかんねぇ…。」 何がしたいのか本当に自分でも分からない。 別に春人が舞山さんと付き合っていたとしても俺には一切関係の無いことなのに。 ぼんやりと前方にあるロッカーの名札を見つめる。『長岡』と女性のものと比べても綺麗な字で書かれたそれ。 「裕大は…春人の何なんだ…。」 知らないことばかり、知りたいことばかりだ。 だが春人は何も教えてくれない。 春人が本当に俺のことを信用していないのなら…もういっそ春人との仲を終わらせるのが良いのかもしれない。自分を信じてくれない人と一緒にいるのはとても苦痛だから…。…だがそんなことはしたくない。 春人が全てを明かしてくれれば――… そんなことを考えていると一般公開終了の放送が流れたので仕方なしに教室に戻り掃除に取り掛かる。 光汰や瑛二とは普段通りに話をできたが、春人の顔は見ることだって出来なかった。 あぁ。いつから自分はこんなに女々しい奴になってしまったんだ。 春人とは軽く言葉を交わしたものの最後までその顔を直視することはできなくて、春人が落ち込んでしまったことが声のトーンから判ったが、俺はやっぱり態度を変えることができなかった。 後夜祭に移り、壇上に上がるミスター&ミスコンテスト候補者を眺めながら隣にいるはずだった春人のことを思う。 『俺はちょっと疲れたからここで椅子座りながら見てるよ。』 そう言った春人に、光汰と瑛二もさすがに何か察したようで、瑛二に至っては咎めるような目で俺を見てきた。 自分でも分かってるけど…と目を逸らした俺は、これでは本当に子供と母親のようだと気付いて自分に心底呆れた。 教室に戻ったら…春人にちゃんと謝ろう。 そう思いながらモヤモヤと燻ったままの胸中を抑えるように手を握りしめる。 すると少し離れた場所に裕大が友人たちと立っている姿を見つけた。そして同じくこちらに気付いたらしい裕大がニコリと笑ってこちらに向かってくる。 「よっ。せっかく告白に最適な後夜祭なのに浮かない顔してんじゃん。」 イベント事での告白を期待して胸を踊らせるような奴でないというのはもう互いに知っているというのに、からかうようにそう言ってきた裕大。 「もしかして宮田のこと考えてた?」 やたらと勘のいい裕大は少し後ろにいる光汰と瑛二に目を向けながら尋ねてくる。 きっともうどんなにこの場を取り繕ったって裕大は全て知っているんだろう、と諦めたような気持ちになって1つ息を吐いてから昨日のことを尋ねる。 「昨日…部室棟のとこで…春人と何してたんだ?」 尋ねられた裕大は面白そうに…俺が見たことない顔で笑った。 「さぁ?別にいつもと変わんねーことしかしてねーよ。」 「変わんない…なに?」 そう更に聞くと裕大はそれには答えずただ笑みを深くする。 「春人に聞いてみろよ。まだ"相手"も教えてもらえてねえ"お友達"の笠井くん?」 いつもは苗字で呼んでいるのに、春人を下の名前で呼んで俺を挑発するように言った裕大に、抑えていた感情が遂に溢れ出した。 「怒んなって。素直に聞いてみりゃ良いじゃねーか。まぁ教えてもらえねぇと思うけど。」 詰め寄ってきた俺に裕大は笑うと更に煽るような言葉を投げる。 「んなの分かんねぇだろ。」 「いや、分かるって。そんなんも分かんねぇから春人も『笠井には』言えねんだよ。」 知った風な口を効く裕大にまた怒りが湧き上がる。 裕大の言葉に乗せられるのは気分が悪かったが、早くその予想を覆したくて、俺は裕大の肩を1度押すと教室に向かった。

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