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10/4(金)

俺と宗平の間に流れる空気が重いことに、光汰も瑛二もすぐに気が付いた。 挨拶こそ交わすものの、普段はホームルームが始まるギリギリまでどちらかの席で喋っていた2人が急によそよそしくなったのだから当然と言えば当然だろう。 そんな折、放課後帰ろうとした俺に突然声をかけてきた瑛二は一言「春人は俺が聞く方が良いらしい。」と意味の分からないことを言ってきた。 よく分からないままついてきて、帰り道から少し逸れた公園に来て2人でベンチに腰掛け特に会話もなく遊ぶ子供たちを眺める。 「もしかして…宗平とのこと気にしてくれてる?」 連れてきたのは瑛二であるが、何も言ってこないその態度に焦れて俺から話を振ると瑛二は頷いて俺の目を見る。 「うん。友達だからね。」 そう当然のように言った瑛二にじんわりと温かいものが胸の中に広がる。 「でも2人が今週1週間かけても俺たちに何も言わなかったってことは言いたくないことなんだろうから、無理に教えてくれなくてもいいよ。」 そう言った瑛二に少し理解ができなくてその顔を見つめる。 だって理由を聞いて解決しようとするのでなければ俺たちは何故今ここにいるのか。 暫く黙って待ってみたが瑛二は理由を語らずにただ子供たちを眺めているだけ。 だがどうやらそれは長い『間』を置いていただけだったらしく、俺を見てゆっくり聞いてくる。 「春人だって、言いたくないでしょ?」 そう確認するように言ってきた瑛二にコクリと1度頷く。そんな俺を見てから瑛二はまた前を向いた。 「俺は自分の言葉の選択があまり良いものじゃないってのは分かってるんだけど、それは言った後に気付くんだよね。まぁ全部本心から思ってることなんだけど。」 と、瑛二が自身について語り出す。 なんだなんだ。何が始まったんだ。 少し困惑はしたものの黙って次の言葉を待つ。 「光汰は昔っからの付き合いだからこんな俺に慣れてるけど、やっぱり春人や宗平にとっては頭に来る言い方も多いと思うんだ。」 瑛二の表情はいつもと変わらないし声に淀みも無いのだけど、少し落ち込んで見えるのはきっと気のせいなんかではないはずだ。 「だから上手い言葉も掛けられないけど…黙って傍にいることくらいはできるよ。」 そう言って俺の目を真っ直ぐに見てきた瑛二。 「だから1人で居たいけど…居たくないような…そんな時は、俺のとこにおいで。」 まるで口説かれているようだと思いながら、瑛二の優しさとやっぱり上手くないストレートなその物言いに笑みが零れる。 宗平のことは…このまま本当に失ってしまうのかもしれない。それは想像しただけでまた涙が出てきそうなほど苦しい。 それでも瑛二がいれば今は大丈夫な気がする、と1度深く呼吸をして礼を言った。 あぁ、俺は友達には恵まれた人生なんだなぁ。

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