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10/11(金) 2

長岡が突然部屋に訪ねて来たと思ったらいきなり俺の髪を引っ掴んで首を反らせるとそこに唇を寄せてきた。 「なに…っ…」 突然のことに理解が追いつかなくてされるがままだった俺の晒された首に、ピリリとした痛みが走り、新たな痕を付けられたのだと分かった。 もう前のキスマークが消えたからと選んだ緩く首元の空いたシャツでは、どう頑張ったって隠しようのないそれを確認した長岡は満足そうに指で口を拭うと「来い。」と扉の外を示す。 「笠井が来てる。」 目を見開いて固まる俺の腕を掴んで無理矢理部屋から引きずり出そうとしてきた長岡に、必死で抵抗するがやはり俺の力では歯が立たなくてズルズルと階段まで引き摺られてきてしまった。 「おい、自分で歩けよ。転がり落ちんぞ。」 階段を数段下った長岡が踊り場で踏ん張る俺の手を掴んだまま呆れたようにそう言うが、そんなことを言うのならこの手を今すぐ放してほしい。 キッと睨みつけた俺を見た長岡は面倒そうに息を吐いて、体を前に屈めたかと思ったらグッと俺の膝下を纏めて掴んで持ち上げた。 「うわ!?」 そのまま俵を担ぐ…いや、俵の方がマシだろうという感じで俺は長岡の肩に担がれてしまう。足の付け根が長岡の肩に乗り、上半身は頭を下にして垂れ下がっている。何も支えるものが無いので長岡が手を離したら間違いなく頭から落ちてしまうだろう。 「いっだっう"っ!」 階段を降りる度に訪れる衝撃に声を上げ、視界に映る長岡の足と階段を眺めていると1番下まで着いたらしい長岡は少し粗雑に俺を下ろすと、足が床に触れた瞬間一目散に逃げ帰ろうとした俺の腕を掴んで「会ってけよ。」と言ってきた。 会えるわけがないだろう。しかもこんな真新しい痕まで付けられて…! 長岡は俺の腕を掴んだまま玄関の扉を開けると靴も履いてない俺を外に放り出した。 縺れそうになる足を懸命に動かしてなんとか転ばずに体制を保ち顔を上げ長岡を睨んだ俺に、後ろから声がかかる。 「春人!大丈夫か!?」 キィッと門扉の開く音が響いて次いで駆け寄ってくる足音。 だが俺は宗平の姿を確認するより先に長岡のいる玄関に向かう。 「っ春人!」 切羽詰まったような声で俺の腕を掴んだ宗平の手を払う。痕を見られてしまうだろうから宗平に振り向くこともできないまま。 「話すことなんて、何も無いから。」 「春人…」 せっかく訪ねてきてくれた宗平に自分の態度が最悪であるという自覚はあるが、こんな痕を堂々と晒した姿で向き合うほど、俺のメンタルも…きっと宗平のメンタルも強くできてなんていない筈だ。 玄関扉を開けた際、手前に立つ長岡と目が合ったが今度は無理矢理に宗平の前に連れて行かれることもなく、俺はあっさりと扉の内側に戻ることができた。 確実に閉じた扉を確認して息を吐く。 顔も見れなかった宗平の…俺を呼ぶ声がまだ残っていて、思わず耳を塞いだ。

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