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11/30(土)

パサッ…という音のすぐ後でボールが虚しく床に転がっていくのが見えた。 「あー…惜しい。もうちょい上。」 俺は今日、宗平と一緒にバッティングに来ているのだが、前に宗平に予想されたように俺はやっぱり全然上手くなくて宗平も若干苦笑いしている。 「80キロなんて打てねぇよ!もっと下無ぇの!?」 「遅すぎても逆に当たんねぇぞ。100とかでやってみれば?」 宗平がガチガチと機械を操作するのを慌てて止める。 「無理!絶対気付いたらボールが後ろにある!!」 「じゃあこのまま80でな。」 呆れたように宗平が速度設定を戻す。 「もっとバット短く持って、まず当てんのが目標なんだからあんま振りかぶりすぎないで…あとボールが当たるまでちゃんと見てな?」 駄々を捏ねる子供のように当てるまでこの場を離れたがらない雰囲気の俺を見かねて宗平がいくつかアドバイスをくれ、最後の最後で漸く1球当てた俺は跳ねてバットを振り回し大騒ぎをした。 「当たった!」 「うん。見てた。おめでと。」 宗平も嬉しそうに笑ってくれて俺は更に気分が良くなる。 「宗平はバッティングも上手いんだな。」 「普段はこんなホームランでねぇけど…今日は春人が一緒だからかな?」 何気なく出た俺の感想に宗平はそんな言葉を返してきて、それに俺は顔を赤くして宗平を小突く。宗平はアハハッと軽く流してまたいつかのようにイタズラっぽく笑った。 あぁー…宗平と居る時間が、俺は大好きだ…。 バッティングセンターを出てどこか店に入ろうかと提案してきた宗平に対し、近くに公園があるからそこで少し話をできないかと誘った。 明日から12月ということもあり、日も傾き出したこの時間に外にいるのは少し肌寒く、周囲にも人影はない。 だが…俺もここに長居をするつもりは無い。 「寒いな。」 ベンチに2人で腰掛けてからそう言ってピタリとくっついてきた宗平。 それにまた心臓が跳ねる。 やっぱり…俺は──… 「宗平…。俺…たぶん、宗平のこと好きだ。」 俺がそう口にすると宗平はパッと背筋を伸ばして体を少し俺の方に向ける。 「何がきっかけで…って言われると分からないけど…たぶん俺はずっと、最初から宗平のこと好きだったんだと思う。最近宗平のお陰でそれが恋愛の好きに変わったっていうか…。」 恥ずかしくて…この後のセリフを言うのが苦しくて…宗平の目が見れない。 「春人…。」 宗平は俺の名前を呼ぶと俺を包むように抱きしめてきた。 けど…俺はその腕を掴んで、ゆっくりと外す。 「でも…ごめん。俺、宗平とは付き合えない。」

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