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11/15(金)

「まじ、情けねー…」 ベッドにうつ伏せる宗平が俺から顔を隠すように頭から布団を被り鼻声で呟いた。 きっと昨日傘を貸したのは自分なのに、その結果雨に当たって風邪を引いた自分の格好つかなさを悔いているのだろう。 「恥ずかしいから見舞いなんて来なくて良かったのに…。」 「兄ちゃん。春人くんせっかく来てくれてるのにそんなこと言ったら可哀想だよ!」 「うっせー。お前出てけよ…。」 幸広くんと宗平とのそのかわいらしいやり取りに俺は思わず笑ってしまった。 俺は今、学校終わりに宗平の部屋に傘を返しがてら見舞いに訪れていて、俺を出迎えてくれた幸広くんはそのままベッドの横に腰掛けた俺の横に同じように腰掛けて宗平を見ている。 「春人くん。俺ここに居たらダメですか?」 宗平に出て行けと言われた幸広くんは縋るような目で俺を見て抱きついてくる。それを見た宗平が体を起こして、幸広くんの肩に手をかけた。 「まじでいい加減にしろ幸広!」 「いやだー!兄ちゃん寝てろよー!俺はそこで春人くんとゲームしてるからー!」 「お前病人の真横でゲームやる気か。ふざけんなよ!」 そしてワーワーと騒ぐ幸広くんを外に放り出した宗平は扉に鍵までかけてしまった。外から「開けてよー!」と叫ぶ幸広くんの声が聞こえてくる。 「追い出さなくても…。」 「いいの。春人と2人で居てぇし。」 そう言って俺を見た宗平の顔が少し赤いのは…きっと熱のせい。なのに釣られて俺も頬を赤く染めてしまう。 「あ…と…、お見舞い…買ってきた。何が良いかよく分かんなかったからとりあえずプリンと飲み物…。」 「悪い。ありがと。」 宗平は軽く礼を言ってベッドに腰掛ける…が、プリンとプラスチックのスプーンを持った俺を見ても特に自身の手を差し出してきたりしなくて、俺は「え?ちょっと…?」と言いながらこれをどうするべきなのかオロオロとする。 「…食べさせて。」 「っ!?自分で食べれるだろ…!」 突っぱねるようにそう言うと宗平は拗ねたような顔をしてプリンを手に取り開ける。そのあっさり引き下がった態度になんだか俺の方が悪いことをしてしまった気分になってスプーンを持った宗平の手を思わず掴んでしまった。 「ひ…1口だけなら…食べさせてやらなくも…ない…。」 そう真っ赤になりながら言うと宗平は「すげー上から。」とは言ったものの嬉しそうに笑ってくれた。 そして、プリンを掬って宗平の口に差し出すのだが、人に物を食べさせるなど初めてのことだからカタカタと手が震えてしまう。 しかも宗平の開いた口から真っ赤な舌がのぞいていて、それが酷く劣情を煽り、恥ずかしくなって目を逸らした。 「春人って相変わらずかわいーな。」 そう言いながら宗平は俺の手を掴んで震える指にキスをする。 「っ宗平!!」 「悪い。プリン食べようとしたのに春人の手がすげー震えてるから逸れた。」 そんな明らかに嘘な言い訳をしゃあしゃあと言った後、今度はきちんとスプーンに口を付ける宗平。 そんな宗平を見ながら俺は、握られたままの手に心臓が付いているのではないかと思うくらいドクドクと熱く脈打つ鼓動を感じていた。

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