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12/13(金)

またぐすぐすと涙を流しては何も言えない俺に、何も声を掛けることなく瑛二がただ隣に座る。 先日俺に手紙を渡してきた女の子に、宗平がきちんと断りを入れたらしいのだが、今日その子が俺の所にやってきて「宗平くん、好きな人がいるみたいなんだけど誰か知らない?」と聞いてきた。 俺はオドオドしながら「初めて聞いた…。」とだけ答え、それを聞いたその子は不満そうにしながらも諦めたように去っていった。 宗平が…俺を理由に告白を断ってくれるなんて…。 宗平は『好きな人』としか言わなかったらしいのでその相手が俺を指すのかどうかなんて定かじゃないし、宗平が告白を断るところなんて何回も見ているのに、それでも俺は宗平が俺のために断ってくれたような気持ちになって嬉しくなってしまう。だが暫くして、これは俺が避けようとしていた未来のはずなのに、と気付いて自己嫌悪した。 宗平が俺なんかに惑わされないで普通の女の子と普通に付き合ってほしいと思ってフッたのに…俺のために断ってくれて嬉しいだなんて… そうして落ち込む俺を見た瑛二は、学校が終わり帰ろうとした俺の手を無言で引いて、2人で来る時はお馴染みと化した公園のベンチに俺を座らせてポンポンと背中を叩いた。その温かさに抑えていたはずの涙がボロボロと零れ、頬を伝い落ちて来る。 「俺たちってあと2年しか一緒にいないんだね。」 突然に瑛二がそんなことを言い出した。確かに今が12月だから大体卒業まではあと2年だ。 「長いけど、終わってみたらきっとあっという間だよ。」 そう言いながら遠くを見つめるような顔をした瑛二。俺も卒業後のことを少し考えて、いつか今この時を懐かしんで笑ったりできる日が来るのだろうかと想いを馳せる。 そんな俺の横で瑛二が続けた。 「だからやりたいことは全部やりな。……って兄ちゃんが言ってた。」 …え?お兄さん? 「瑛二、やっぱ上に兄弟いたんだな。」 「うん。俺6人兄弟の2番目。」 「ろ…え?…6!?」 瑛二という名前からして兄弟がいるだろうとは思っていたが6人というのは予想より遥かに多くて驚きを隠せない。 「1番下はまだ保育園だから俺が時々お迎え行かないといけなくて、だから部活の参加も不定期なんだ。今日もお迎え行かなきゃなんだよね。」 そうして瑛二が立ち上がるので、忙しい中時間を割いてくれたことに申し訳なくなるが同時に嬉しくなる。 「やっぱり上手いことは言えないけど、早く元気出してくれたら嬉しいなって思ってるから。」 瑛二はそう言い残すと街頭の灯り出した街並みに消えていった。 『やりたいことは全部やりな。』 背中を押すような瑛二の言葉を思い出す。 「やりたいこと…。」 だが、それはしてはいけないこと。 浮かぶのはただ1人の笑顔。 人の居なくなり、藍の濃くなりだした空の下で佇み、俺は1人で滲む星達を見上げた。

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